第11章 クンニの真髄 ― 外陰部への口でのふれあいを、研究と手順で深める
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「クンニ」(クンニリングス)は、外陰部(女性の性器の外側)やクリトリスに、口や舌でふれるふれあいです。実践編(第7章)では、清潔にすること、まわりからクリトリスへ近づけることなど、基本を短く紹介しました。この章では、そこから一歩進めて、からだのしくみ、研究で分かっている好みの傾向、舌の形・強さ・リズムの手順、疲れにくい姿勢、合図の決め方、性感染症と妊娠中の注意、よくある失敗までをまとめます。
口でのふれあいは、しなくてもよいものです。してもらう側・する側のどちらかが気が進まない時は、ほかのふれあいを選びます。この章の内容は、女性同士のふたりにもそのまま当てはまります。研究で確かめられた内容には出典を( )で示し、経験者のあいだでよく語られる工夫はそう書いて分けています。
からだのしくみ:クリトリスは「見えている所」だけではない
クリトリスは、外から見える先端(亀頭)だけの小さな器官ではありません。オーストラリアの泌尿器科医たちの総説によると、クリトリスは、先端に加えて、体の中へ続く本体と、左右に分かれて骨盤の骨にそう脚(クリトリス脚)、腟の入り口の両側にある球(前庭球)からなる、立体的な器官です。先端は神経がとても密に集まっていて、外から見える唯一の部分です(O'Connell ら, 2005)。
- 先端(亀頭):外陰部のいちばん上、左右のひだ(小陰唇)が合わさる所にある。手術のときに採取した神経を数えた研究では、先端に向かう神経(陰核背神経)には、片側で平均5,140本、両側で約1万本の神経線維が数えられた(Uloko ら, 2023)。よく言われる「8,000本」より多く、感じやすい理由の一つと考えられる
- 包皮(フード):先端をおおう皮。直接より、包皮の上からのほうが心地よい人が多い(下の研究を参照)
- 小陰唇・大陰唇:外陰部のひだ。小陰唇の上端は包皮につながっている
- 前庭:小陰唇の内側の部分。上から順に、尿の出口(外尿道口)、腟の入り口がある
- 会陰:腟の入り口と肛門のあいだの皮膚
前庭球や脚は体の中にあるため、口が直接ふれるのは先端・包皮・ひだ・前庭が中心です。それでも、まわりを押したり、ひだを口に含んだりすると、中の部分にも圧が伝わると考えられます。クリトリスのしくみのくわしい説明は第2章にあります。
研究で分かっていること
口でのふれあいと絶頂 オーストラリアの16〜59歳19,307人の電話調査では、いちばん最近の男女の性行為で絶頂した割合は、男性95%、女性69%でした。女性は、ふれあいの種類が多いほど絶頂しやすく、とくにクンニが含まれている時に絶頂しやすい傾向がありました(Richters ら, 2006)。アメリカの調査でも、手・口でのふれあいを組み合わせた女性で、絶頂した割合が高くなっていました(第7章、Frederick ら, 2018)。どちらも本人が答えた調査で、「クンニをしたから絶頂した」という因果までは分かりません。
してもらう側の感じ方と、すれ違い カナダの大学生899人の調査では、口でのふれあいを受けて「とても心地よい」と答えたのは男性73%・女性69%で、男女に差はありませんでした。一方、いちばん最近の性行為で口でのふれあいを受けたのは、男性63%に対し女性44%でした(Wood ら, 2016)。心地よさは同じでも、女性が受ける機会は少ない、というすれ違いがうかがえます。
好まれる触れ方 アメリカの18〜94歳の女性1,055人の全国調査(指・手・口・舌を含む性器へのふれ方を聞いたもの)では、次の傾向が報告されています(Herbenick ら, 2018)。
- 強さ:軽い〜中くらいを好む人が多く、強い圧を好む人は10.7%。どの強さでもよい人は15.9%
- 動きの形:上下(63.7%)、円(51.6%)、左右(30.6%)が多い。ただし、多くの人が好む形は少数にしぼられていた
- 直接か間接か:クリトリスへ間接的にふれるのを好む人(約3分の2)のうち、69.1%が「包皮の上の皮膚ごしに」を挙げた
- パターン:上位には「動きのリズミカルな切り替え」「クリトリスのまわりを回る動き」「強い・弱いの切り替え」が入っていた
- 絶頂を遅らせる工夫:遅らせることを心地よいと答えた人(約3分の2)のうち、パートナーがすべての刺激を止めてから再開した(64.4%)、感じにくい場所にふれた(63.8%)、ゆっくりにした(51.6%)
- 2回目以降:複数回絶頂する人のうち、1回目の後に心地よかったのは、前の段階の刺激に戻って高め直すこと(53.3%)、同じ刺激を続けること(33.5%)、まったく別の刺激(32.8%)と、分かれていた
これらの研究で分かること:口でのふれあいは、女性の心地よさや絶頂と関係していること。好みは人によって大きく違い、「軽め・上下か円・包皮の上から」が始める順番の目安になること。限界:本人が答えた調査で、口だけの場合と指の場合を分けて調べたものではありません。舌の形や速さを比べた研究は、今回の検索では見つかりませんでした。
始める前の準備
- 話し合う:してほしいか、どこまでか、止める合図(「ストップ」の一言、肩を2回たたく、など)を先に決める。同意は、その都度・一つずつ(第1章)
- 洗う:してもらう側は、外陰部の外側をぬるま湯でやさしく洗う。腟の中は洗わない。する側は、口のまわりのひげを整えておくと、肌がこすれにくい
- 歯みがき・フロスは直前を避ける:歯ぐきに小さな傷ができ、病気がうつりやすくなるため、口でのふれあいの直前・直後の歯みがきやフロスは避け、水か洗口液ですすぐ(Terrence Higgins Trust; Oral Health Foundation)。口の中に傷・口内炎・歯ぐきの出血がある日は控える(CDC)
- 爪と手:途中で指も使うことが多いので、爪を短く整え、手を洗う
- クッション:してもらう側の腰の下に入れる枕と、する側の胸やひじの下に入れるクッション。タオルも敷いておく
手順①:始め方 ― まわりから、ゆっくり
以下の手順は、研究で確かめられた「正しい順番」ではなく、上の研究の傾向と、経験者のあいだでよく語られる工夫を組み合わせた一例です。時間は始める時の目安です。
- まず外側(2〜5分):太ももの内側、足の付け根、下腹部に、くちびるや手でふれる。下着の上からふれる段階をはさむ人もいる。すぐに中心へ行かないことで、高まりを待つ
- 大陰唇・小陰唇へ:くちびるで軽くはさむ、舌の広い面でゆっくりなで上げる。強さは「皮膚の表面をすべる」くらい
- クリトリスへは包皮の上から:最初は包皮の上やクリトリスの横から。直接の先端は、強すぎると感じる人が多い(Herbenick ら, 2018)
- 息を吹きこまない:腟の中へ息を吹きこむことは、妊娠中に命にかかわる事故の原因になる(下の「妊娠中と月経中」を参照)。妊娠していなくても、習慣にしない
手順②:舌の形・強さ・リズム
- 舌を平らに広げる:舌の力を抜いて広い面を使う。刺激がやわらかく広がり、する側のあごや舌も疲れにくい(経験者の工夫)。始めと、刺激が強すぎると言われた時に向く
- 舌先をとがらせる:刺激が一点に集まり、強くなる。高まってきてから、包皮の上やクリトリスの横に使う
- くちびるで包む:クリトリスのあたりをくちびるで軽く包み、吸う力を弱く保つ。強く吸うと痛みになりやすい
- 動きの形:上下、円、左右の3つから。1つの形を少なくとも1〜2分続けてから、合うかを確かめる。数秒ごとに変えると、高まる前に終わってしまう
- 強さ:軽い〜中くらいから。強い圧を好む人は約1割(Herbenick ら, 2018)。「もっと」と言われてから上げる
- リズム:一定のリズムを保つ。速さを上げるより、同じリズムで続けるほうがよい、という声が多い(経験者の工夫)
高まってきた時は「変えない」 心地よいと言われた動きを見つけたら、強さ・速さ・場所を変えずに続けます。高まりの途中で急に変えると、遠ざかることがある、と経験者のあいだではよく語られます。一方で、わざと止めたり、弱めたりして絶頂を遅らせるのが好きな人もいます(Herbenick ら, 2018)。どちらが好きかは、事前か途中で聞きましょう。
手順③:手や指と組み合わせる
- 包皮を軽く引き上げる:片手の指で下腹部の皮膚を少し上へ引くと、包皮が少し上がり、舌が届きやすくなる。直接が強すぎる人には、しない
- 腟の入り口や中に指を:十分に高まって、うるおってから、指1本をゆっくり。口はクリトリスに、指は入り口の浅い所かおなか側の壁に、と役割を分ける。指の動きは小さく、口のリズムに合わせる(指の入れ方は第7章)
- 空いている手で:太ももや腰、おなか、胸にふれる。手を握り合うのも、合図のやりとりになる
- 道具を足す:舌が疲れた時に、振動する道具をいちばん弱い設定で、口のかわりに当てる人もいる
疲れにくい姿勢
する側は、あご・舌・首・肩が疲れやすく、それが長く続けられない一番の理由になりがちです。最初から楽な姿勢を作りましょう。
- してもらう側があお向け、腰の下に枕:骨盤が上がり、する側が首を反らさずにすむ。する側はうつぶせになり、ひじで上半身を支え、胸の下にクッションを入れる
- してもらう側がベッドのふちに座る、またはあお向けで脚をベッドの外へ:する側は床にひざをつき、クッションを敷く。首がまっすぐになり、いちばん疲れにくいと言われる
- してもらう側が上にまたがる:してもらう側が、位置・強さ・速さを自分で調整できる。する側の鼻や口がふさがれないよう、してもらう側はひざで体重を支え、ベッドの頭板などに手をつく。息苦しい時の合図を決めておく
- 横向き:ふたりとも横になり、してもらう側の上の脚を、する側の肩にかける。首と腰の負担が少ない
あごや舌が疲れたら、無理をせず、指でのふれあいに切り替えて休みます。口から指へ、指から口へと交互にしてもかまいません。休んでいるあいだも、同じ場所に同じリズムでふれ続けると、高まりが途切れにくいと言われます(経験者の工夫)。
合図とフィードバック
- 言葉で:「そこ」「そのまま」「もう少し弱く」「もう少し上」。短い言葉で十分。強さを「1〜5のどれ?」と数字で聞くと答えやすい
- 手で:してもらう側が、する側の頭にそっと手を置き、位置を軽く導く。ただし、頭を押さえつけたり、強く引き寄せたりはしない。する側が苦しくなる
- からだの反応:腰を引く、体がこわばる、脚を閉じるのは、強すぎる・場所が違うサインのことが多い。いったん弱めて確かめる
- 終わったあとに:「よかったこと」を一つ、「次はこうしてほしい」を一つ。批評ではなく、好みの共有として
性感染症の予防
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、口でのふれあいでクラミジア、淋菌、梅毒、ヘルペス、HPV、HIVがうつりうること、口の衛生が悪い時や、口や性器に傷がある時にリスクが上がりうることを説明しています(CDC: About STI Risk and Oral Sex)。厚生労働省も、口から性器へ、性器から口への2つの方向でうつり、のどに感染しても症状が出ないのがふつうなので、気づかないままうつすことがある、と案内しています(厚生労働省 Q&A)。
- デンタルダム:ラテックスかポリウレタンの薄いシートを外陰部に当てる。毎回新しいものを使い、始める前から終わるまで当てたままにする。のばして使わない。油性の製品は破れの原因になるので、ローションは水性かシリコーン系を。手元にない時は、ラテックスかポリウレタンのコンドームの先と根元を切り、縦に切り開いて代わりにできる(CDC: How to Use a Dental Dam)
- HPVとのどのがん:CDCによると、アメリカでは、のどの奥(中咽頭)のがんの60〜70%にHPVが関わっていると考えられている。口のHPVは主に口でのふれあいでうつり、HPVワクチンは、のどのがんの原因になる型も防ぐ(CDC: HPV and Oropharyngeal Cancer)。ワクチンの対象年齢は国や自治体で違うので、医療機関に確認を(第4章)
- 細菌性腟症:口でふれられる回数と細菌性腟症のかかりやすさの関係が、女性同士のふたりの研究で示されている(CDC, 2021)。いつもと違うおりものやにおいがある日は控える
- 症状がある日はしない:口唇ヘルペス(くちびるの水ぶくれ)がある時は、外陰部にうつりうる。口や性器に、ただれ・水ぶくれ・いぼがある日は控える
- 検査:のどの淋菌・クラミジアは、のどの分泌物やうがい液を使う検査で調べられる(厚生労働省 Q&A)。性器の検査だけでは分からないので、口でのふれあいをしていることを受診時に伝える
妊娠中と月経中
- 妊娠中は、腟に息を絶対に吹きこまない:妊娠中に腟へ息を吹きこむと、空気が子宮の中の膜の下から血管に入り、肺や心臓の血管をふさぐ「空気塞栓」を起こすことがある。妊娠38週で起きた例の報告では、母親は助かったものの、赤ちゃんは亡くなった(Hill と Jones, 1993)。16本の報告をまとめた総説では、報告された女性のうち12人が亡くなり、多くは妊娠後期だった(Journal of Basic and Clinical Reproductive Sciences の総説)。出産後まもない時期の報告もある(Farine)。クンニそのものは、妊娠中も一般には問題ないとされているが、息を吹きこむことは決してしない
- 妊娠中のその他:主治医から性行為を控えるよう言われている時は、口でのふれあいも主治医に確認する
- 月経中:月経中の口でのふれあいは、相手がHIVに感染していて、ウイルスの量が検出できるほど多い場合に、HIVがうつる可能性をわずかに上げる(Terrence Higgins Trust)。デンタルダムを使うか、その日は別のふれあいを選ぶ、などをふたりで決める
よくある失敗と直し方
- いきなりクリトリスの先端を強く:まわりと包皮の上から始め直す。「軽く」から
- 数秒ごとに動きを変える:1つの動きを1〜2分続け、「どう?」と聞いてから変える
- 心地よいと言われたのに変える:見つけた動きは、強さも速さも変えずに続ける
- 強く吸う・歯が当たる:吸う力は弱く。歯は当てない
- 首を反らした姿勢で続け、すぐ疲れる:してもらう側の腰の下に枕を入れる、ベッドのふちを使う
- 黙って続ける:途中で一言たずねる。答えにくそうなら、数字で聞く
- 「絶頂させなきゃ」とあせる:絶頂はゴールではありません。届かなくても、その時間が心地よければ十分です(第2章)
- 腟に息を吹きこむ:危険なので、しない(上の「妊娠中と月経中」)
ふたりで試すお題 次の時間に、「上下・円・左右」の3つの動きを、それぞれ1分ずつ、包皮の上から試してみましょう。してもらう側は、それぞれ「1〜5」で心地よさを答えてください。終わったあとに、いちばん高かった動きを一つ覚えておきましょう。
この章の方法で必ず絶頂する、という研究の裏付けはありません。外陰部に痛み・ただれ・いつもと違うおりものがある時は中止し、続く時は婦人科へ。妊娠中は、腟に息を吹きこむことを絶対にしないでください。
参考にした資料
- O'Connell HE, Sanjeevan KV, Hutson JM(2005)Anatomy of the clitoris. Journal of Urology 174(4)
- Uloko M ら(2023)How many nerve fibers innervate the human glans clitoris(PubMed 36763957)
- Richters J ら(2006)Sexual practices at last heterosexual encounter and occurrence of orgasm in a national survey. Journal of Sex Research 43(3)
- Frederick DA ら(2018)Differences in Orgasm Frequency Among Gay, Lesbian, Bisexual, and Heterosexual Men and Women in a U.S. National Sample. Archives of Sexual Behavior
- Wood JR, McKay AS, Komarnicky T, Milhausen RR(2016)Was it good for you too?: An analysis of gender differences in oral sex practices and pleasure ratings among heterosexual Canadian university students. Canadian Journal of Human Sexuality 25(1)
- Herbenick D ら(2018)Women's Experiences With Genital Touching, Sexual Pleasure, and Orgasm: Results From a U.S. Probability Sample of Women Ages 18 to 94. Journal of Sex & Marital Therapy 44(2)
- CDC(2024)About STI Risk and Oral Sex
- CDC(2024)How to Use a Dental Dam
- CDC:HPV and Oropharyngeal Cancer
- CDC(2021)Women Who Have Sex with Women (WSW) and Women Who Have Sex with Women and Men (WSWM)(性感染症診療指針)
- 厚生労働省:オーラルセックスによる性感染症に関するQ&A
- Terrence Higgins Trust(イギリスの性の健康の慈善団体): Oral sex
- Oral Health Foundation(イギリスの口の健康の慈善団体): Oral sex and oral health
- Hill BF, Jones JS(1993)Venous air embolism following orogenital sex during pregnancy. American Journal of Emergency Medicine 11(2)
- Inherent Dangers in Orogenital Sex During Pregnancy(総説). Journal of Basic and Clinical Reproductive Sciences
- Farine D:Air Embolism Related to Sex in Pregnancy and the Postpartum(書籍『Sex and Pregnancy』の章, Cambridge University Press)