第7章 実践編 ― 始めてから終わったあとまでの手順
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ここまでの章では、同意、からだのしくみ、避妊と予防を見てきました。この章では、実際に「何を、どんな順で、どう触れ合うか」を、手順としてまとめます。書いてあるのはあくまで目安です。心地よさの感じ方は一人ひとり違うので、相手の言葉と反応をいちばんの手がかりにしてください。痛みや不快感があれば、どの段階でもすぐに止めます。
この章では、研究や医療機関の情報にもとづく内容と、「経験者のあいだでよく語られる工夫」をはっきり分けて書きます。後者は研究で確かめられたものではないので、合うかどうかを試しながら取り入れてください。
全体の流れ ― どの段階でも「しない」を選べる
おおまかな流れは次のとおりです。ただし、これは順番に全部こなす「コース」ではありません。どこで終えてもよく、挿入をしない日があってもかまいません。第1章で見たように、同意は行為ごとに確かめるものです。
- 始める前:体調、時間、避妊と予防の準備(第4章)、したくないことを短く確かめる
- キスと、全身へのふれあい
- 手でのふれあい
- 口でのふれあい(しなくてもよい)
- 挿入(しなくてもよい)
- 終わったあとの手入れと、ふれあいの時間
途中で確かめる言葉は、短いほうが使いやすいです。たとえば「このまま続けていい?」「強さはこのくらい?」「次、ここにふれてもいい?」。伝える側は「もう少し弱く」「そこ」「ちょっと待って」「今日はここまで」のように一言で伝えます。
キスと全身へのふれあい
第2章で紹介したアメリカの大きな調査(Frederick ら, 2018)では、女性がオーガズムに届く割合は、ふれあいの内容で大きく違っていました。深いキス・手で性器にふれること・口でのふれあいを組み合わせた女性では80%、そこに挿入を加えた女性では77%でした。挿入だけの場合は、それよりずっと低い割合でした。本人が答えた調査で、組み合わせたから届いたという因果までは分かりません。それでも、挿入の前後のふれあいを省かないことの意味を示しています。
経験者のあいだでよく語られる工夫は、「外側から中心へ、弱く、ゆっくり」です。
- 髪、首すじ、背中、腕、太ももの外側など、性器から遠い所から始める
- 最初は、指の腹や手のひらで「なでる」くらいの軽さにする。つかむ、もむのは、相手の反応を見てから
- 胸や太ももの内側は、中心にいきなり向かわず、まわりをなでてから近づく
- 心地よさそうな場所が見つかったら、そこに少し長く時間をかける
- 時間の目安は決まっていないが、性器にふれる前のふれあいに10〜15分ほどほしい、という声がよく聞かれる。時計より「相手がもう次へ進みたいか」を言葉で確かめる
- マッサージオイルやローションを使う人もいる(コンドームを使う場面では、第3章のとおり水性のものを選ぶ)
手でふれる ― 場所・指の形・向き・強さ
手でふれる前に、爪を短く整え、手を洗っておきます(第3章)。性器は乾いたままこすると痛みやすいので、うるおいが足りない時はローションを使います。以下の手順のうち、出典を( )で示していないものは、研究で確かめられたものではなく、経験者のあいだでよく語られる工夫です。
女性のからだ クリトリスは、外陰部のいちばん上、左右のひだ(小陰唇)が合わさる所にあります。先端は、フードのような皮(包皮)におおわれています。アメリカの女性約1,000人を調べた全国調査の学会発表では、心地よいとされた場所は、クリトリス、そのまわりの皮膚、ひだ(陰唇)が多く挙がりました。好む強さは「とても軽く」が約3分の1、「中くらい」が約3分の1で、「強め」は約1割でした。動かし方は「上下」を好む人が63%、「円を描く」が52%でした(Herbenick ら, 2016)。同じ調査の報告では、41%の女性が、ある特定の1つのふれ方を好むと答えています。人によって答えがかなり違うので、この数字は「まず試す順番」の参考にとどめてください。
- 最初は、人さし指と中指の腹をそろえ、ひだの外側や太ももの付け根をなでる
- クリトリスには、はじめは包皮の上から、または横からふれる。先端に直接ふれるのは、強すぎると感じる人が多いとされる(経験者のあいだでよく語られる工夫)
- 向きは、上下になでる、小さな円を描く、左右に小さく動かす、のどれかから。1つを試したら「どれがいい?」と聞く
- 強さは、閉じたまぶたを押しても痛くないくらいの軽さから始め、速さもゆっくりから
- 心地よいと言われた動きは、同じ強さ・同じリズムで続ける。高まってきた時に急に変えると、かえって遠ざかることがある(経験者のあいだでよく語られる工夫)
- 同じ所を長く続けて「感覚が鈍くなった」「くすぐったい」と言われたら、いったんひだや太ももに戻って少し休み、また軽い強さから始める
- 腟に指を入れる時は、十分に高まってうるおってから、1本の指でゆっくり。痛みがあれば止める
男性のからだ 陰茎は、先の部分(亀頭)と、その裏側にある皮がつながった細いすじ(陰茎小帯)が特に敏感な人が多いとされます。
- 最初は、陰茎全体や太ももの付け根、陰のうを、手のひらや指の腹で軽くなでる
- 陰のうは痛みを感じやすいので、手のひらで下から包むくらいの力にとどめ、握ったり引っぱったりしない
- 陰茎を手で包む時は、指と手のひらで筒をつくり、根元から先へ、先から根元へとゆっくり動かす。ローションを使うと皮膚がこすれにくい
- 握る強さは人によって大きく違う。ひとりの時の握り方を、本人の手で見せてもらうのが近道(経験者のあいだでよく語られる工夫)
- 腰を引く、顔をしかめるのは、強すぎる・速すぎるサインのことが多い。いったん弱めて確かめる
- 速さは、1秒に1往復くらいのゆっくりから始め、本人の「もう少し速く」に合わせて上げる。射精が近いと言われたら、止める・弱める・続けるのどれがよいかを本人に聞く
「もっと弱く」「そこ」を伝えるには 言葉にしにくい時は、ふれている手の上に自分の手を重ね、強さ・場所・速さをそのまま導く方法があります。ふれる側は、導かれた動きをまねして「これで合ってる?」と確かめます。「強さを1〜5で言うと?」と数字で聞くのも、答えやすくなる工夫です。
口でのふれあい
口でのふれあいは、しなくてもよいものです。どちらかが気が進まない時は、ほかのふれあいを選びます。
- 清潔:ふれる前に、シャワーなどで性器と口のまわりを清潔にしておく
- 歯を当てない:陰茎にふれる時は、くちびるで歯をおおうようにする。深くくわえすぎず、苦しくない所までにする。根元を手で支えると、深さを自分で調整しやすい
- 舌の使い方の基本:平らにした舌で広くなでる動きと、舌先で小さく動かす動きがある。手と同じく、ゆっくり・軽くから始めて、相手の反応で変える
- 女性の外陰部では、手と同じく、まわりから始めてクリトリスへ近づける
- 受ける側は、相手の頭を押さえたり、腰を強く突き出したりしない
アメリカの病気予防の専門機関(CDC)は、口でのふれあいでも多くの性感染症がうつること、コンドームや、口と外陰部・肛門の間に置く薄いシート(デンタルダム)を毎回使うことで、うつる危険を減らせることを案内しています。くわしくは第4章を見てください。
挿入は「受け入れる側」がペースを決める
挿入は、ふたりとも十分に高まり、受け入れる側が「いいよ」と言ってからにします。避妊と予防の準備(第4章)も、性器がふれ合う前にすませます。
- うるおいが足りなければ、ローション(潤滑剤)を足す(第3章)
- 入り口にあてたら、受け入れる側が手で導くか、自分で動いて迎え入れる
- 最初は浅く、ゆっくり。入れたまましばらく動かずに、からだが慣れるのを待つのもよい
- 深さと速さは、受け入れる側が決める。「もう少し浅く」「ゆっくり」と伝える
- 痛みが出たら、その場で止める。角度を変える、ローションを足す、手のふれあいに戻る、今日は終える、のどれを選んでもよい
奥のほうが痛む、何度も痛みが出る、という時は、第5章の相談先(婦人科など)を参考にしてください。
姿勢の選び方と、挿入中に刺激を足す方法
第2章で見たように、挿入だけでオーガズムに届く女性は2割ほどで、多くの人は挿入中にクリトリスへの刺激があると届きやすい、またはより心地よいと答えています(Herbenick ら, 2018)。そこで姿勢は、名前よりも「誰が動きを調整しやすいか」「深さ」「からだの負担」「手が使えるか」で選ぶと考えやすくなります。
- 向かい合う形(受け入れる側があおむけ):顔が見えて声をかけやすい。動きは上の人が主に調整する。受け入れる側の腰の下に枕を入れると角度が変わる、という工夫がよく語られる。上の人が腕で体重を支えるので疲れやすい
- 受け入れる側が上になる形:深さ・速さ・角度を受け入れる側が自分で調整しやすい。上の人か下の人の手で、クリトリスにふれやすい。上の人が前にかがんで、こすりつけるように動くとクリトリスにも刺激が届く、という工夫がよく語られる
- 横向きで寄りそう形(後ろから包むように):動きが小さく、深くなりにくい。腰やひざの負担が少なく、疲れている日にも向く(第3章・第6章)。前にまわした手で、クリトリスにふれやすい
- 後ろからの形(受け入れる側がよつんばいやうつぶせ):深くなりやすいので、奥が痛む人は浅めに。受け入れる側が自分の手や道具でクリトリスにふれやすい
どの形でも、痛い・苦しい・疲れたと感じたら、動きを止めて「形を変えようか」と声をかけます。横向きの形や、受け入れる側が上になる形に移ると、深さと負担を調整しやすくなります。
刺激を足す方法は、主に2つあります。1つは、受け入れる側か相手の指で、手でふれる時と同じようにクリトリスにふれることです。もう1つは、小さな振動する道具(バイブレーター)を当てることです。道具を使う時は、使う前後に洗い、ふたりで使うことを前もって話しておきます。道具を使うことは、相手の代わりではなく、ふたりの工夫のひとつです。
向かい合う形を少し変えた「CAT(コイタル・アラインメント・テクニック)」という方法もあります。上の人がふだんより少し頭の側へずれて、骨盤どうしが当たるようにします。そのうえで、大きく出し入れするかわりに、骨盤を押し合うように小さく前後に揺らす方法です。考案者の研究では、この方法を学んだ女性ほど挿入中のオーガズムが多いという結果でした(Eichel ら, 1988)。ただし、別の専門家のグループは同じ結果を確かめられませんでした(Kaplan, 1992)。夫婦36組を2つの方法にふり分けた小さな比べる試験では、どちらの方法でも改善が見られ、この方法がやや上回った点があるという程度でした(Hurlbert, Apt, 1995)。どれも古くて人数の少ない研究なので、「効く方法」とまでは言えません。興味があれば試してみる、くらいの位置づけです。
終わったあと
- コンドームは、第4章の手順どおり、勃起が弱まる前に根元を押さえて外す
- おしっこ:イギリスの国民保健サービス(NHS)は、膀胱炎などの尿の通り道の感染症(尿路感染症)を防ぐ工夫として、性行為のあとできるだけ早くおしっこをすること、腟のまわりの皮膚を性行為の前後に水で洗うことを挙げています。これだけで必ず防げるわけではありませんが、手軽にできる習慣です
- 拭く時は前から後ろへ。肛門にふれた指や道具を、洗わずにそのまま腟にふれさせない
- ふれあいの時間:すぐに離れず、少し抱き合ったり、飲み物を渡したりする
- 感想を伝え合う:第3章のとおり、「よかったこと」を先に1つ、「次に試したいこと」を1つ。責める言い方はしない
よくある失敗と直し方
- 性器にいきなりふれる → 全身から始め、中心へは相手の反応を見て近づく
- 最初から強く・速く → 弱く・ゆっくりから始め、「もっと」と言われてから上げる
- うまくいっている動きを途中で変える → 心地よいと言われたら、同じ動きを続ける
- 乾いたまま挿入する → ローションを使う。うるおいは高まりの目安の1つにすぎないので、言葉でも確かめる
- 痛みを我慢する・させる → その場で止める。我慢は慣れにつながらない(第3章)
- 「届かせなければ」と焦る → オーガズムは目標ではなく結果の1つ。届かない日があってもよい
相手の首を絞める、同意なくコンドームを外す、お酒で判断を鈍らせて進める、といった行為は、けがや、同意のない性的な行為につながります。どんなに雰囲気が盛り上がっていても行いません。首や呼吸を圧迫する行為は、短い時間でも命にかかわる危険があります。
ふたりで試すお題 次のふれあいで、手でふれる時の「強さを1〜5で答える」練習をしてみましょう。ふれる側が「今は2くらい?」と聞き、答えた数字に合わせて強さを変えます。終わったら、いちばん心地よかった数字と場所を1つずつ伝え合ってくださいね。
参考にした資料
- Frederick DA ら(2018)Differences in Orgasm Frequency Among Gay, Lesbian, Bisexual, and Heterosexual Men and Women in a U.S. National Sample. Archives of Sexual Behavior
- Herbenick D ら(2018)Women's Experiences With Genital Touching, Sexual Pleasure, and Orgasm. Journal of Sex & Marital Therapy
- Herbenick D ら(2016)Female Pleasure and Orgasm: Results from a U.S. Nationally Representative Survey(学会発表の要旨). Journal of Sexual Medicine
- U.S. women report diverse preferences related to sexual pleasure, study finds(インディアナ大学の発表, 2017)
- Eichel EW ら(1988)The technique of coital alignment and its relation to female orgasmic response and simultaneous orgasm. Journal of Sex & Marital Therapy
- Kaplan HS(1992)Does the CAT technique enhance female orgasm? Journal of Sex & Marital Therapy
- Hurlbert DF, Apt C(1995)The coital alignment technique and directed masturbation: a comparative study on female orgasm. Journal of Sex & Marital Therapy
- About STI Risk and Oral Sex(米国疾病予防管理センター CDC)
- How to Use a Dental Dam(米国疾病予防管理センター CDC)
- Urinary tract infections (UTIs)(英国国民保健サービス NHS)