第2章 からだのしくみと感じ方の違い ― 反応の段階と個人差
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「どうして相手と自分で、こんなにペースが違うんだろう」と感じたことはありませんか。その多くは、どちらかが悪いせいで起きるものではありません。からだの反応のしかたや感じ方に、もともと人それぞれの幅があることから生まれます。この章では、性的な反応の流れと、研究で分かっている男女の傾向、そして一人ひとりの違いについてお話しします。
性的な反応は「段階」で説明されてきた
医学では昔から、性的な反応を次の4つの段階で説明してきました。
- したい気持ち(欲求):したい、ふれたい、という気持ちがわく段階
- 高まり(興奮):血が性器に集まり、陰茎が硬くなったり、腟がうるおったりする段階
- 気持ちよさの頂点(オーガズム):快感が高まりきり、骨盤まわりの筋肉がリズムよく縮む段階
- 落ち着き(消退):からだが少しずつ落ち着いていく段階
この流れは分かりやすい地図のようなものです。ただ、実際にはいつもこの順番どおりに進むとは限りません。
「気持ちが先」とは限らない ― 反応してから高まる欲求
カナダの医師バッソンは、次のような考え方の型(モデル)を示しました(Basson, 2000)。特に長く付き合っている関係の女性では、最初から強い「したい気持ち」があるとは限りません。「ふたりの親しさを感じたい」といった気持ちからふれあいが始まり、刺激を受けて高まってから、あとで「したい気持ち」がわいてくることも多い、というものです。これは診察の経験から生まれた考え方で、たくさんの人を調べて確かめたものではありません。それでも、「最初から乗り気でないとおかしい」わけではないことを教えてくれます。医療者向けの手引き(MSDマニュアル)でも、刺激で高まりや快感が生まれたあとに出てくる「したい気持ち」(反応性の欲求)が紹介されています。
なお、この「あとから高まる」反応は女性だけのものではありません。男性にも見られることがあります。性別で決めつけず、「自分たちはどうか」を観察してみるのがおすすめです。
反応性の欲求は、「相手が同意していなくても、始めれば乗ってくる」という意味ではありません。ふれあいを始めるかどうか、続けるかどうかは、いつでも第1章の同意が前提です。
オーガズムの届きやすさには、男女で差がある
アメリカの大人約5万2千人を調べた調査があります。性的なふれあいのときに「たいてい、またはいつも」オーガズムに届くと答えた人は、異性を好きになる男性では95%でした。一方、異性を好きになる女性では65%でした(Frederick ら, 2018)。同じ調査で、女性同士のカップルの女性は86%と高く、この差は「女性のからだだから」だけでは説明しきれないことも分かりました。ただし、インターネットで本人が答えた調査なので、答えの正確さや、答えた人のかたよりには限界があります。
この調査では、オーガズムに届きやすかった女性には、ある傾向がありました。挿入だけでなく、深いキス、手で性器にふれること、口でふれることなどを組み合わせていたり、してほしいことを言葉にしていたりしたのです。
クリトリスへの刺激の大切さ
アメリカの18〜94歳の女性1,055人を調べた全国調査では、挿入だけでオーガズムに届くと答えた人は18.4%だけでした。36.6%は、挿入中にクリトリスへの刺激が必要だと答えました。さらに36%は、なくてもよいけれど、クリトリスへの刺激があるともっと心地よいと答えています(Herbenick ら, 2018)。心地よいと感じるふれ方の場所・強さ・動かし方の好みも、人によってさまざまでした。性の情報サイトと一緒に行った研究であることや、アメリカでの結果であることには注意が必要です。
つまり、「挿入だけで届かないのはおかしい」ということはありません。むしろ、それがよくあることです。
男性にも幅がある
男性は「いつでもすぐ反応して、必ず届くもの」と思われがちです。けれど実際は、疲れや緊張、お酒、体調によって、勃起のしかたや高まり方は変わります。高まるまでの時間や、心地よいと感じる刺激も一人ひとり違います。「男だからこうあるべき」という思い込みが、かえって緊張を生むこともあります。
研究で分かるのは「たくさんの人を集めたときの傾向」です。あなたやパートナーがその平均に当てはまらなくても、それはおかしなことではありません。痛みや強い悩みが続くときは、第5章の相談先を参考にしてください。
ふたりで試すお題 「気持ちが先に高まるタイプか、ふれあってから高まるタイプか」を、それぞれ自分なりに考えて話してみましょう。正解はないので、「最近はこっちかも」くらいの軽さで大丈夫です。
参考にした資料
- Basson R(2000)The female sexual response: a different model. Journal of Sex & Marital Therapy
- Frederick DA ら(2018)Differences in Orgasm Frequency Among Gay, Lesbian, Bisexual, and Heterosexual Men and Women in a U.S. National Sample. Archives of Sexual Behavior
- Herbenick D ら(2018)Women's Experiences With Genital Touching, Sexual Pleasure, and Orgasm: Results From a U.S. Probability Sample of Women Ages 18 to 94. Journal of Sex & Marital Therapy
- Overview of Female Sexual Function and Dysfunction(MSD Manual Professional Edition)