第10章 マンズリ ― 挿入しないで重ねるふれあいと、妊娠・感染の正しい知識
⏱ 読む時間の目安:約6分
「マンズリ」は、挿入をせずに、陰茎(ペニス)を外陰部(女性の性器の外側)やクリトリスにそわせてこすり合わせるふれあいを指す呼び方です。「素股(すまた)」と似たふれあいで、挿入をしないふれあい(アウターコース)の一つです。挿入に痛みや不安がある時、まだ挿入をしたくない時、クリトリスへの刺激を中心にしたい時などに選ばれます。
ただし、このふれあいは「挿入しないから妊娠も感染も心配ない」と思われがちですが、それは正確ではありません。この章では、やり方とあわせて、妊娠と性感染症について正しく知っておきたいことをまとめます。このふれあいだけを調べた研究は、今回の検索では見つかりませんでした。手順は、医療機関の一般的な注意と、経験者のあいだでよく語られる工夫をもとにした一例です。
先に知っておきたいこと①:妊娠はありうる
- 射精前の液(先走り)にも精子がいることがある:勃起すると、射精の前から透明な液が出る。27人の男性を調べた研究では、10人(37%)の射精前の液に、動いている精子が含まれていた(Killick ら, 2011)。研究者は、性器がふれ合う最初の時点からコンドームを使うよう勧めている
- 外陰部にかかるだけでも:精液が腟の入り口や外陰部にかかると、精子が腟の中へ進み、妊娠することがある(Planned Parenthood)。イギリスの診療所も、勃起した陰茎が外陰部や腟にふれることで、妊娠しうると説明している(Collingwood Surgery, NHS)
- はずみで挿入してしまう:ローションですべりがよく、腟の入り口の近くで動かすため、意図せず先が入ってしまうことがある。挿入しないつもりで、避妊の準備がない時に起こりやすい(Planned Parenthood)
妊娠を望まない時は、勃起した時点でコンドームをつけてから始めましょう。コンドームが破れた・外れた、精液がかかった、はずみで入ってしまった時は、緊急避妊薬について、できるだけ早く医療機関や薬局に相談してください(第4章)。
先に知っておきたいこと②:性感染症もうつりうる
北米性医学会は、性感染症を、体液でうつるもの(HIV・クラミジア・淋菌など)と、皮膚と皮膚の接触でうつるもの(ヘルペス・HPV・梅毒)に分け、性器同士をこすり合わせるふれあいでも、皮膚の接触でうつる病気のリスクがあると説明しています(SMSNA)。このふれあいでは、射精前の液や腟の分泌液といった体液もふれ合います。
- コンドームを使う:体液のふれ合いを減らし、妊娠も防げる。ただし、コンドームでおおわれない根元や陰のう、外陰部の皮膚はふれ合うので、ヘルペス・HPV・梅毒は防ぎきれない(CDC: About Genital HPV Infection; CDC: About Syphilis)
- 症状がある日はしない:どちらかに、ただれ・しこり・水ぶくれ・いぼ・いつもとちがうおりものがある日は、お休みにする
- 検査:新しいパートナーができた時は、保健所の無料・匿名検査などで調べておく(第4章)
始める前の話し合い ― 「入れない」の線を決めておく
このふれあいでは、「どこまでするか」を始める前に言葉で決めておくことが、とくに大切です。同意はその都度・一つずつ(第1章)です。
- 挿入はしない、と約束する:「今日は入れない」を先に決める。途中で挿入したくなった時は、いったん動きを止めて言葉で確かめ、コンドームをつけてから。片方が「入れない」と言ったら、それで決まり
- コンドームを使うか:妊娠と感染の両方を考えると、使うことを勧めます
- 射精する時にどうするか:外陰部や腟の入り口から離れた所で、ティッシュやタオルで受ける、など
- 止める合図:「ストップ」の一言、肩を2回たたく、など
姿勢と動き
動きを調整しやすいのは、外陰部の側(女性の側)です。女性の側がペースと位置を決められる姿勢から始めましょう。
- 女性の側が上になる:あお向けの相手にまたがり、陰茎を相手のおなか側に倒して、その上に外陰部を重ねる。女性の側が、当たる場所と強さ、前後に動く幅を自分で決められる。腟の入り口ではなく、クリトリスに近い前側に当てるよう意識すると、はずみで入りにくい
- 横向きで向かい合う:体重がかからず、ゆっくり動ける。女性の側が上の脚を相手の腰にかけると、重なる位置を調整しやすい
- 女性の側があお向け:男性の側は、ひじとひざで体重を支え、陰茎を外陰部の上側にそわせる。男性の側が動きを決める形になるので、女性の側がこまめに「もう少し上」「その強さ」と伝える
動きは、大きく前後に動かすより、押し当てたまま小さく揺らす・小さく前後にすべらせるのが基本です。1つの動きを1〜2分続けてから、合う・合わないを決めます。恥骨同士が強く当たると痛むので、打ちつける動きは避けましょう。
クリトリスへの刺激を中心に
クリトリスは、外に見える先の部分だけでなく、体の中へ広がっていて、性的な反応の中心になる場所です(第2章)。このふれあいの心地よさも、陰茎がクリトリスのあたりをこすることから来ることが多いと考えられます。
- 当てる場所:陰茎の裏側(陰茎小帯のある側)や軸を、クリトリスの上から外陰部の前側にそわせる
- 手を足す:女性の側や男性の側が、指で陰茎を軽く押さえて当たる位置を固定する、空いている手でクリトリスのまわりにふれる、など
- 強さ:クリトリスは敏感で、直接の強い刺激は痛みになりやすい。押し当てる強さは軽めから。痛い時は、陰茎の当たる位置を少し下げるか、手のひらで包むふれ方に戻る
うるおいと衛生
- ローション:乾いたままこすると、外陰部も陰茎もひりひりしやすい。水性かシリコーン系のローションをたっぷり使う。ラテックスのコンドームを使う時は、油性(ベビーオイル・ワセリンなど)は破れやすくするので使わない(NHS)
- ローションが腟の入り口に流れる:すべりがよすぎると、はずみで入りやすくなる。動きをゆっくり・小さくし、位置を確かめながら続ける
- 洗う:始める前と終わったあと、ぬるま湯で外側をやさしく洗う。腟の中は洗わない
- 下着越しにする:下着をつけたまま重ねると、体液のふれ合いや、はずみの挿入は減らせる。ただし、下着をつけていても、皮膚の接触や体液のふれ合いを完全には防げない(Planned Parenthood)
ふたりで試すお題 始める前に、「今日は入れない」「コンドームはつける」「止める合図」の3つを、ふたりで声に出して確かめてみましょう。終わったあとに、「当たって心地よかった位置」を一つずつ伝え合ってみてください。
このふれあいでも、妊娠や性感染症はゼロにはなりません。妊娠を望まない時は勃起した時点からコンドームを使い、精液がかかった・はずみで入った時は、できるだけ早く緊急避妊について相談してください(第4章)。痛み・ひりひり・ただれが出たら中止しましょう。
参考にした資料
- Killick SR, Leary C, Trussell J, Guthrie KA (2011). Sperm content of pre-ejaculatory fluid. Human Fertility 14(1)
- Planned Parenthood: What Is the Effectiveness of Abstinence and Outercourse?
- Collingwood Surgery(NHS): Can I get pregnant if I have sex without penetration?
- 北米性医学会(SMSNA): Outercourse
- CDC (2025). About Genital HPV Infection
- CDC (2025). About Syphilis
- NHS(イギリス国民保健サービス): Condoms