第6章 40代からのふたりの時間 ― 変化とじょうずに付き合う
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年齢を重ねると、からだも暮らしも少しずつ変わります。それは「終わり」を意味するものではありません。ふたりの時間の形が変わっていく、ということです。この章では、40代以降に起こりやすい変化と、その付き合い方、病院に行く目安をまとめます。
年を重ねても、性を楽しむ人は多い
アメリカの57〜85歳の約3千人を調べた全国調査があります。過去1年に性的な関係があった人は、57〜64歳で73%、65〜74歳で53%、75〜85歳で26%でした。性的なふれあいのある人の約半数が、何かしらの困りごとを抱えていました。女性では、したい気持ち(性欲)が弱くなること(43%)、うるおいにくさ(39%)、気持ちよさの頂点(オーガズム)に届きにくいこと(34%)が多く挙げられました。男性では、勃起の困りごと(37%)が多く挙げられました。一方で、50歳を過ぎてから医師と性について話したことがある人は、男性38%、女性22%だけでした(Lindau ら, 2007)。アメリカの調査で、年代による違いが「年齢のせい」なのか「生まれた時代の違い」なのかは分けられていません。それでも、悩みはよくあることで、しかも相談されにくいことが分かります。
女性のからだの変化 ― 更年期とうるおい
日本産婦人科医会によると、生理が終わる(閉経)平均の年齢は50.5歳です。その前後10年ほどが、体が大きく変わる時期(更年期)とされています。この時期には、女性ホルモン(エストロゲン)が大きく減ります。ほてりや汗、気分の変化などとともに、腟の乾きが起こることがあります。
国際的な学会は、エストロゲンが減ることで起きる、性器のまわり・腟・尿の通り道の変化をまとめて、「閉経関連尿路生殖器症候群(GSM)」と呼ぶことを提案しました。乾き、焼けるような感じ、うるおいにくさ、性交の時の痛み、トイレが近いことや、くり返す膀胱炎などが、まとめて含まれます(Portman ら, 2014)。これは専門家が話し合って決めた呼び名の定義です。治療がどれくらい役立つかを調べた研究とは違います。
日本産婦人科医会の資料では、性交の時の痛み(性交痛)は、本人が相談しないかぎり見過ごされがちだと書かれています。そして、うるおいを保つ薬(保湿剤)や潤滑剤、エストロゲンを腟に直接使う治療(局所療法)などの方法があると紹介されています。
男性のからだの変化 ― 勃起とLOH症候群
男性も、年齢とともに、勃起までに時間がかかる、硬さが続きにくい、といった変化が起こりやすくなります。また、男性ホルモン(テストステロン)が減って、疲れやすさ、気分の落ち込み、性欲や勃起が弱くなるなどの状態が出ることがあります。これを「LOH症候群(男性更年期障害)」と呼びます。日本内分泌学会によると、40代以降のどの年代でも起こりうるもので、血液検査で診断されます。
勃起の悩みは、血管の健康のサインでもあります。アメリカの55歳以上の男性約9千人を追いかけて調べた研究があります。途中で勃起しにくくなった人(勃起障害)は、その後に心筋梗塞など、心臓や血管の病気を起こす割合が高くなっていました(Thompson ら, 2005)。もともとは、前立腺がんを防ぐ方法を調べる試験に参加した人たちのデータです。勃起障害が病気の原因というより、同じ血管の変化が先にあらわれたものと考えられています。
暮らしと関係の変化
仕事や介護、子育ての疲れ、体力の変化、持病や薬の影響などで、前と同じようにはいかない日も増えます。長く一緒にいるからこそ、「話さなくても分かるはず」と思い込みやすい時期でもあります。
付き合い方のヒント
- ローションや、ふだんから使う腟のうるおいを保つ薬(保湿剤)を取り入れる
- 挿入の前のふれあい(前戯)の時間を、これまで以上にゆっくりとる
- 横向きに寄り添うなど、腰やひざに負担の少ない姿勢を選ぶ
- 疲れていない時間帯(休日の昼など)を選ぶ
- 「最近こう感じている」と、変化を責めずに話し合う
- 手をつなぐ、マッサージし合う、一緒にお風呂に入るなど、肌のふれあい(スキンシップ)の幅を広げる
- 射精やオーガズムをゴールと決めつけず、ふれ合う心地よさそのものを楽しむ
ホルモンを補う治療(ホルモン補充療法、HRT)や、腟に使うエストロゲンの薬、ED治療薬、テストステロンを補う治療は、どれも医師の処方が必要です。乳がんや、血の中にかたまりができる病気(血栓症)の危険、心臓の病気で使う薬との飲み合わせなど、確かめるべき点があります。自分だけで判断して、手に入れたり使ったりしないでください。
受診の目安
- 性交痛や腟の乾き、ひりひりした感じが続く:婦人科
- 閉経後に出血がある(おりものが茶色っぽいだけでも):早めに婦人科へ。子宮の奥にできるがん(子宮体がん)の主な症状は出血で、閉経後の出血には注意が必要とされています
- 勃起の悩みが続く:泌尿器科。高血圧や糖尿病、心臓の病気が隠れていないかも確かめてもらう
- 疲れやすさ・落ち込み・性欲が弱くなることが続く男性:泌尿器科やホルモンの病気をみる科(内分泌内科、LOH症候群の相談)
- ほてりや気分の変化がつらい女性:婦人科(更年期外来)
年齢による変化は、どちらかのせいではありません。「前と同じ」を目指すより、「今のふたりに合う形」を探すほうが、長く心地よく続けられます。
ふたりで試すお題 「最近、からだのことで気になっていること」を1つずつ話し、「挿入しなくても心地よいふれ合い」を3つ書き出してみましょう。次の休日に、その中から1つ試してみてくださいね。
参考にした資料
- Lindau ST ら(2007)A study of sexuality and health among older adults in the United States. New England Journal of Medicine
- Thompson IM ら(2005)Erectile dysfunction and subsequent cardiovascular disease. JAMA
- Portman DJ, Gass ML ら(2014)Genitourinary syndrome of menopause: new terminology for vulvovaginal atrophy. Maturitas
- 相談されないと対応しない性交痛のケア(日本産婦人科医会)
- 男性更年期障害(加齢性腺機能低下症、LOH症候群)(日本内分泌学会)
- 子宮体がん(子宮内膜がん)について(国立がん研究センター がん情報サービス)