第5章 よくある悩みと相談先 ― 痛み・届かない・勃起・タイミング・すれ違い
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性の悩みは人に話しにくいので、「自分だけかも」とひとりで抱え込みがちです。けれど研究を見ると、多くの人が何かしらの悩みを経験しています。この章では、よくある悩みごとに、考え方のヒントと、どこに相談すればよいかをまとめます。
悩みがあるのは珍しくない
イギリスのふつうに暮らす人約1万5千人を調べた全国調査があります。過去1年に性的な関係があった人のうち、男性の41.6%、女性の51.2%が、性的な反応について何かしらの困りごとを経験していました。一方で、自分の性生活をつらいと感じている人は約1割でした(Mitchell ら, 2013)。本人が答えた調査で、イギリスの結果が日本にそのまま当てはまるとは限りません。それでも、「悩みがあること」自体は珍しくないことが分かります。同じ調査では、パートナーと性について気軽に話せないことと、性の働き(性機能)がよくないことにつながりが見られました。
痛い(性交痛)
同じイギリスの調査の結果を調べ直した研究では、性的なふれあいのある女性の7.5%が、3か月以上続く性交の時の痛み(性交痛)を経験していました。痛みは、腟の乾き、性への不安、楽しめていないことなどと強くつながっていました(Mitchell ら, 2017)。この研究は「つながり」を調べたもので、どれが原因かまでは分かりません。
- まずは第3章の工夫(時間をかける、ローションを使う、姿勢を変える)を試す
- 痛みが続く、出血がある、入り口ではなく奥が痛む、という時は婦人科へ
- 性行為でうつる病気(感染症)、子宮の内側の膜に似たものが別の場所にできる病気(子宮内膜症)、皮膚の病気などが隠れていることもあるので、我慢し続けない
男性でも、痛みやひりひりした感じが続く時は、泌尿器科に相談できます。
届かない(オーガズムに達しにくい)
第2章で紹介したように、特に女性では、挿入だけでは気持ちよさの頂点(オーガズム)に届きにくいことがよくあります。届かないこと自体は病気ではありません。ひとりの時にどんなふれ方が心地よいかを知っておき、それをパートナーに伝えることが助けになる場合があります。長く続いて本人がつらいと感じる時は、婦人科や、性の悩みをみる専門の外来に相談する方法もあります。
勃起の悩み
緊張や疲れ、お酒で一時的に勃起しにくくなるのは、誰にでもあることです。一度うまくいかなかったことで不安になり、その不安がまた勃起のじゃまをする、という悪い流れ(悪循環)もよく起こります。
- 「今日は挿入しない日」にして、プレッシャーを外してふれ合う
- よく眠る、体を動かす、たばこをやめる、お酒を控えめにするなど、血管の健康を意識する
- 何か月も続く時は泌尿器科へ。高血圧や糖尿病など、血管の病気が関わっていることもある
勃起を助ける薬(ED治療薬)は、医師の処方が必要です。心臓の病気で使う一部の薬と一緒に飲むと、危ない場合があります。必ず診察を受けて処方してもらいましょう。病院も、インターネットで買うのは危ないと注意を呼びかけています。
早すぎる・遅すぎる
性の働きを研究する国際的な学会(国際性機能学会)の委員会は、早く射精してしまう状態(早漏)を、次の3つがそろう状態と決めました(Serefoglu ら, 2014)。「挿入してからほぼ毎回およそ1分以内(もともと)、またはおよそ3分以内に短くなった(途中から)」「ほぼ毎回コントロールできない」「本人が苦痛や悩みを感じている」です。これは専門家が話し合って決めた定義です。主に男女の挿入を前提にしている点には限界があります。つまり、「少し早いかも」と感じるくらいなら、多くはふつうの範囲です。
反対に、なかなか射精しない、届かないという悩みもあります。緊張や疲れ、体調、飲んでいる薬など、理由はさまざまです(ひとりの時の刺激のしかたとの関係は、姉妹サイト「オナニーの達人」でも取り上げています)。どちらも、長く続いて悩んでいる時は泌尿器科に相談できます。ふたりで「時間の長さ」よりも「心地よさ」に目を向けることも、気持ちを軽くする助けになります。
気持ちのすれ違い(したい気持ちの差)
「したい回数」がふたりで違うのは、とてもよくあることです。前に紹介したイギリスの調査でも、1年間関係が続いていた人の2〜3割が、パートナーとの間に性への関心の差があると答えていました(Mitchell ら, 2013)。長く付き合っている人たち229人に、気持ちの差があった時どうしたかを聞いた研究もあります。話し合ったり、別のかたちでふれ合ったりと「ふたりで取り組む」方法をとった人ほど、性生活や関係への満足度が高い傾向がありました(Vowels ら, 2020)。ただし、229人が自分で答えた研究です。その方法のおかげで満足度が上がったのかまでは分かりません。
- どちらが正しい、ではなく「ふたりの違い」として話す
- 性的なふれあいだけでなく、ハグや添い寝など、別の形の親しさも大切にする
- 話し合いが難しい時は、ふたりで専門家に相談する方法(カップルカウンセリング)も選択肢になる
相談先の目安
- 性交痛、おりものの変化、生理以外の出血(不正出血)、避妊の相談:婦人科(産婦人科)
- 勃起、射精、性器の痛みやかゆみ:泌尿器科
- 性感染症の心配:保健所(無料・匿名の検査)、泌尿器科、婦人科、性感染症内科
- 気持ちの落ち込みや強い不安:心療内科、精神科、カウンセラー
- 同意のない性的な行為の被害:📞 #8891(性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター)
性の悩みを相談するのは、恥ずかしいことではありません。医療者にとっては、よくある相談です。「何科か分からない」時は、いつもみてもらっているお医者さん(かかりつけ医)に聞いてみるのもひとつの方法です。
ふたりで試すお題 「最近ちょっと気になっていること」を、1人1つずつ、相手を責めない言い方で話してみましょう。話し終わったら、「話してくれてありがとう」と伝え合ってくださいね。
参考にした資料
- Mitchell KR ら(2013)Sexual function in Britain: findings from the third National Survey of Sexual Attitudes and Lifestyles (Natsal-3). Lancet
- Mitchell KR ら(2017)Painful sex (dyspareunia) in women: prevalence and associated factors in a British population probability survey. BJOG
- Serefoglu EC ら(2014)An evidence-based unified definition of lifelong and acquired premature ejaculation. Journal of Sexual Medicine
- Vowels LM, Mark KP(2020)Strategies for Mitigating Sexual Desire Discrepancy in Relationships. Archives of Sexual Behavior
- 男性機能障害(ED)(昭和医科大学江東豊洲病院 泌尿器科)
- 性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(内閣府男女共同参画局)