第4章 避妊と性感染症の予防 ― コンドーム・ピル・検査・ワクチン
⏱ 読む時間の目安:約6分
安心して楽しむためには、望まない妊娠と、性行為でうつる病気(性感染症)を防ぐ準備が欠かせません。どちらも「相手まかせ」にせず、ふたりで話し合って決めることが大切です。この章では、主な方法と、困った時の相談先をまとめます。
コンドームは避妊と感染予防の両方を担う
コンドームは、避妊と性感染症の予防を同時にできる、身近な方法です。アメリカの国の研究機関(米国国立衛生研究所)が検討したあとに出た研究を集めた論文(総説)があります。これらの研究は、人を先の時点から追いかけて調べたもの(前向き研究)です。この論文では、コンドームを使うことが、HIVに加えて、クラミジア、淋菌、性器ヘルペス(2型)、梅毒などにかかることを減らすこととつながっていました(Holmes ら, 2004)。ただし、多くは人の様子を観察しただけの研究(観察研究)です。100%防げるわけではないと、著者自身も書いています。それでも、正しく使えば、うつる広がりを大きく減らせる、というのがこの論文のまとめです。
コンドームの正しい使い方と保管
- 包装に書かれた使用期限を確かめ、破れや傷がないか見る
- 袋は指先でていねいに開け、爪や歯で中身を傷つけない
- 性器がふれ合う前、勃起した段階で着ける。途中から着けるのでは予防にならない
- 先の精液だまりをつまんで空気を抜き、根元までしっかり下ろす
- 射精のあとは、勃起が弱まる前に、根元を押さえながら離れる
- 1回ごとに新しいものを使う。2枚重ねはしない
- 財布やズボンのポケットなど、熱やこすれがある場所に入れっぱなしにしない。涼しく乾いた場所にしまう
- ローションは水が主な成分のもの(水性)を使い、油が主な成分のもの(油性)は使わない
低用量ピルは医師の処方で
低用量ピル(経口避妊薬)は、女性が毎日飲むことで、卵子が出ること(排卵)をおさえる方法です。医師の処方が必要です。日本産科婦人科学会の手引きの案(ガイドライン案)では、避妊に失敗する割合(100人が1年使った時に妊娠する数)が紹介されています。正しく飲み続けた場合は0.3、飲み忘れなども含めたふだんの使い方では8です。
一方で、血管の中に血のかたまりができる病気(血栓症)が起きる危険が、少しだけ高まることが知られています。35歳以上で1日15本以上たばこを吸う人は使えません。このように、年齢や持病、喫煙によって使えるかどうかが変わります。また、ピルでは性感染症を防げません。うつるのを防ぐには、コンドームも一緒に使うことが勧められます。
緊急避妊は「できるだけ早く」相談を
コンドームが破れた、避妊できなかった、という時には、あとから飲む避妊の薬(緊急避妊薬)という方法があります。飲むまでの時間が短いほどよいとされているので、迷ったら早めに動きましょう。厚生労働省によると、手に入れる方法は次の3つです。
- 病院やクリニックを受診し、医師の処方を受ける
- インターネットを使った診察(オンライン診療)で医師にみてもらい、対応する薬局で薬を用意してもらう
- 2026年2月から、研修を受けた薬剤師がいる薬局などでは、薬剤師の説明を受けて買う薬(要指導医薬品)として購入できるようになった(販売できる薬局の一覧は厚生労働省のサイトで公開。在庫などを電話で確かめてから行くことが勧められています)
緊急避妊薬は、ふだんの避妊の代わりにはなりません。また、飲んだあとも妊娠を完全に防げるわけではありません。予定の生理(月経)が来ない時は、妊娠検査や婦人科の受診をしましょう。同意のない性的な行為の被害にあった時は、「📞 #8891」(性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター)に相談できます。
性感染症は「症状がなくても」うつることがある
厚生労働省は、梅毒、性器クラミジア感染症、淋菌感染症、性器ヘルペス、尖圭コンジローマを、主な性感染症として挙げています。ほかにもHIV、B型肝炎、トリコモナスなどが、性的なふれあいでうつることがあります。口や肛門を使ったふれあいでもうつります。
性感染症の多くは、症状が軽いか、まったく出ないことがあります。気づかないうちに、パートナーにうつしてしまうこともあります。治療せずにいると、子どもができにくくなる(不妊)原因になったり、重い別の病気(合併症)につながったりするものもあります。だからこそ、早めの検査と治療が大切です。多くは治療できますが、治ったあとでもまたうつることがあります。
保健所では無料・匿名で検査が受けられる
- 全国の保健所では、HIV検査を無料・名前を言わずに(匿名で)受けられる。梅毒、クラミジア、淋菌の検査も一緒にできる保健所がある(一部お金がかかる場合や予約が必要な場合あり)
- うつったかもしれない機会から検査までに、決まった期間をあける必要がある。たとえば東京都は、HIVの通常検査で60日以上、その日に結果が分かる検査(即日検査)で90日以上たってから、と案内している
- 症状がある、パートナーがかかっていると分かっている、という時は、病院やクリニック(泌尿器科、婦人科、性感染症内科など)の受診が勧められる
- 検査・相談できる場所は、厚生労働省の「性感染症検査・相談マップ」「HIV検査・相談マップ」で探せる
HPVワクチン
HPVは、子宮頸がんなどの原因になるウイルスです。スウェーデンの約167万人の女性を追いかけて調べた研究があります。HPVワクチン(4価)を打った人は、打っていない人に比べて、まわりに広がるタイプの子宮頸がん(浸潤性の子宮頸がん)になる割合が低くなっていました。打った年齢が若いほど、差は大きくなっていました(Lei ら, 2020)。ただし、これは人の様子を観察した研究です。打った人と打たなかった人の暮らしの違いの影響を、完全には取り除けていないかもしれません。
日本で国のお金で受けられる決まった予防接種(定期接種)は、決められた年齢の女子に限られています。大人の女性や男性が受ける場合は、自分で希望して受ける接種(任意接種、原則自費)になります。受けたい時は、病院やクリニックに相談しましょう。また、20歳以上の女性には、2年に1回の子宮頸がん検診が勧められています。
「どの避妊法にするか」「検査をいつ受けるか」は、相手を責める話とは違います。ふたりを守るための相談です。新しい関係を始める前に、ふたりで検査を受けてみるのもひとつの方法です。
ふたりで試すお題 ふたりで「わが家の避妊と予防のルール」を3行で決めてみましょう。たとえば「コンドームは毎回使う」「置き場所はここ」「年に1回は検査を受ける」など。近くの保健所の検査日も一緒に調べてみてくださいね。
参考にした資料
- Holmes KK ら(2004)Effectiveness of condoms in preventing sexually transmitted infections. Bulletin of the World Health Organization
- Lei J ら(2020)HPV Vaccination and the Risk of Invasive Cervical Cancer. New England Journal of Medicine
- 性感染症(厚生労働省)
- 緊急避妊薬の調剤・販売について(厚生労働省)
- HPVワクチンに関するQ&A(厚生労働省)
- 低用量経口避妊薬、低用量エストロゲン・プロゲストーゲン配合剤ガイドライン(案)(日本産科婦人科学会, 2015)













