四十八手 ― 江戸の名前と、からだにやさしい選び方
「四十八手(しじゅうはって)」は、性行為の姿勢(体位)に、江戸時代から伝わる名前をつけたものです。このコーナーでは、名前の由来や形の説明に加えて、誰の体に負担がかかるか、どうすればけがを防げるか、腰が痛い人はどれを選ぶとよいかを、研究と医療の資料をもとにまとめていきます。
どの手も、ふたりが「してみたい」と思った時に試すものです。名前を全部覚える必要も、全部試す必要もありません。痛い・苦しい・こわいと感じたら、どの形の途中でもすぐに止めます(第1章 同意と話し合い)。
どこから来た言葉か
起こりは諸説ありますが、江戸時代前期の浮世絵師・菱川師宣(ひしかわ もろのぶ)が描いた春画の本『恋のむつごと四十八手』とする説明がよく見られます。和樂webの記事では、延宝7年(1679年)に『表四十八手』として出され、再び売り出す時に『恋のむつごと四十八手』の題がついた、と紹介されています。
ただし、今インターネットや本で広く出回っている48の名前は、師宣の本の題とはかなり違います。たとえば春画研究者・白倉敬彦の解説書の目次では、師宣の48図は「逢夜盃」「思比」「茶臼」「曲茶臼」「後だき」……「火燵隠」と並んでいて、今の一覧と重なるのは一部だけです。名前と形の組み合わせは、時代や資料によって入れかわってきたと考えてください。
表と裏
よく知られた48の手を「表(おもて)」、それとは別に伝わる手を「裏四十八手」と呼び、表裏で「九十六手」ともいいます。裏の名前は資料ごとの違いがさらに大きく、同じ名前が何度も出てきたり、表と同じ名前が混ざったりします。このコーナーでは、多くの資料に共通して出てくる名前を中心に53手を並べ、表と同じ名前(達磨返し・押し車・流鏑馬・鵯越え・しぼり芙蓉・岩清水)は表の側にまとめました。
体の形で分けた一覧(表・裏)
下の表は、各手の説明をもとに、このサイトの編集部が「体の形」で分けたものです。同じ名前でも資料によって形の説明が違う手があるため、分け方は目安です。色のついた名前は、くわしいページがあります(いまは5手)。※の手はひもを使います。使う時は、すぐほどける結び方にし、首には決してかけないでください。
| 体の形 | 表四十八手 | 裏四十八手 |
|---|---|---|
| 愛撫(ふれあい)挿入をしない、全身へのふれあい | 寄り添い、鶯の谷渡り | 白光錦(手でのふれあい) |
| 口でのふれあい口や舌でふれる形 | 岩清水(口で女性へ・クンニの章)[裏にも同名]、雁が首(口で男性へ・フェラチオの章)、二つ巴(お互いに・横向き・フェラチオの章)、椋鳥(お互いに・上下・フェラチオの章)、千鳥の曲(口で男性へ・フェラチオの章)、鵯越えの逆落とし(口で女性へ・脚を肩へ・クンニの章)、立ち花菱(口で女性へ・クンニの章) | 花菱責め(口で女性へ) |
| 正常位の仲間受け入れる側があおむけで、向かい合う形 | つり橋(受け入れる側が腕で体を浮かせる)、理非知らず(ひもを使う※)、しがらみ(脚を閉じる)、しめ小股(脚を閉じる)、千鳥、達磨返し(脚を胸へ)[裏にも同名]、深山(両脚を肩へ) | 俵抱き本手、浮島本手、釣瓶落し、網代本手、揚羽本手、寿本手、笹舟本手、洞入り本手、せきれい本手、しき小股 |
| 後背位の仲間受け入れる側がよつんばい・うつぶせで、後ろからの形 | 抱き上げ(脚を持ち上げる)、鵯越え[裏にも同名]、押し車(脚を持ち上げる)[裏にも同名] | つぶし駒掛け、逆手からみ、後ろづけ、後ろ矢筈、裾野 |
| 騎乗位の仲間(茶臼)受け入れる側が上になる形 | 撞木ぞり(背中を向けて重なる)、時雨茶臼、茶臼のばし(脚を閉じて重なる)、百閉(前後に動く)、御所車(上で向きを変える)、流鏑馬(ひもを使う※)[裏にも同名]、宝船(横向きにまたがる) | 本茶臼、筏茶臼、織り茶臼、茶臼がらみ、月見茶臼 |
| 対面座位座って向かい合う形 | 獅子舞(両脚を肩へ)、こたつ隠れ、帆かけ茶臼(片脚を肩へ)、首引き恋慕(ひもを使う※)、抱き地蔵(いすを使う) | 地蔵抱き、虹の懸橋、忍び居茶臼 |
| 背面座位座って同じ方向を向く形 | 炬燵がかり、乱れ牡丹、本駒駆け、しぼり芙蓉[裏にも同名]、手懸け(いすを使う)、鳴門 | 鳴門後ろ取り、〆込み錦、〆込み千鳥 |
| 側位・脚を交差する形横向き、または脚を互い違いに組む形 | 菊一文字、テコがかり(体を逆向きに重ねる)、松葉崩し、窓の月(横向きで後ろから)、浮き橋、燕返し(うつぶせから脚を交差) | 横笛、零れ松葉、八重椿、卍崩し、浜千鳥、鴨の入首、横取り |
| 立位立ったまま、または片方が立つ形 | うしろ櫓、碁盤攻め(低い台に手をつく)、仏壇返し(床に手をつく)、立ち鼎(向かい合って立つ)、立ち松葉(脚を抱え上げる) | 櫓立ち |
| 形の説明が資料で分かれるもの名前は伝わるが、形が一定しない・確かめられなかったもの | ― | 交喙取り、座禅転がし、花あやめ、下り藤、八つ橋、丁字引き、巣ごもり、内枠、唐竹割り、富車、襷がけ、立て膝とり、突き回し、抱えどり、反り観音、砧、松葉反り |
分け方の手がかり:裏の「〜本手」は正常位、「〜茶臼」は受け入れる側が上になる形を指す言い方として使われています。形がはっきりしない裏の手は、無理に分けず最後の行に置きました。
表四十八手の図
図の色:青=主に動く側、ピンク=受け入れる側。性器は描いていません。図は姿勢の目安で、資料によって形が違う手もあります。
1うしろ櫓
2つり橋
3寄り添い
4撞木ぞり
5獅子舞
6菊一文字
7炬燵がかり
8テコがかり
9岩清水
10時雨茶臼
11理非知らず
12茶臼のばし
13こたつ隠れ
14乱れ牡丹
15帆かけ茶臼
16本駒駆け
17百閉
18雁が首
19しがらみ
20二つ巴
21御所車
22松葉崩し
23碁盤攻め
24首引き恋慕
25しぼり芙蓉
26仏壇返し
27手懸け
28椋鳥
29窓の月
30鳴門
31しめ小股
32千鳥
33抱き上げ
34流鏑馬
35立ち鼎
36鵯越え
37達磨返し
38千鳥の曲
39抱き地蔵
40浮き橋
41立ち松葉
42鵯越えの逆落とし
43燕返し
44宝船
45押し車
46深山
47立ち花菱
48鶯の谷渡り
くわしいページ(見本の5手)
- 時雨茶臼(しぐれちゃうす)― 受け入れる側が上になる、いちばん基本の形受け入れる側が上にまたがる、騎乗位の基本の形。深さと速さを自分で決めやすい一方、陰茎のけがの報告が多い形でもあります。手順、膝と腰の負担、けがを防ぐ動き方、似た手との違いをまとめました。
- 鵯越え(ひよどりごえ)― よつんばいで後ろからの形受け入れる側がよつんばいになり、後ろから重なる形。腰を曲げると痛む男性には背骨の負担が少ないという研究がある一方、陰茎の重いけがが多い形でもあります。手順、腰痛との相性、けがを防ぐ動き方をまとめました。
- 松葉崩し(まつばくずし)― 脚を互い違いに組む形あおむけ(または横向き)の相手の片脚を持ち上げ、脚を互い違いに組んで重なる形。股関節のやわらかさが要ること、ねじれによる負担、深さの調整、似た手との違いをまとめました。
- 帆かけ茶臼(ほかけちゃうす)― 座って向かい合い、片脚を肩へ騎乗位から上半身を起こして向かい合い、受け入れる側の片脚を相手の肩にかける形。脚の裏側のやわらかさと手首の負担、体を起こす時の注意、獅子舞との違いをまとめました。
- うしろ櫓(うしろやぐら)― 台に手をついて、立って後ろから受け入れる側が台や壁に手をつき、立ったまま後ろから重なる形。身長差の合わせ方、すべらない台と床の選び方、足腰の負担、陰茎のけがを防ぐ動き方をまとめました。
すべての手に共通する注意
- 始める前に、避妊と性感染症の予防を準備する(第4章)
- うるおいが足りない時は、ローションを足す。乾いたまま動くと、痛みやけがにつながる(第3章)
- 顔が見えない形では、「止めて」の言葉と、手で2回たたくなどの合図を先に決めておく
- 脚を持ち上げる・体を支える形は、からだのやわらかさと筋力が要る。できない形を無理に作らない
- 勃起した陰茎が抜けた拍子に強く曲がると、陰茎折症という急ぎの治療が要るけがになることがある。「ポキッ」という音、急に萎える、強い痛みや腫れがあれば、すぐ泌尿器科か救急へ(くわしくは時雨茶臼のページ)