第9章 ペニパン ― 腰につける道具の選び方と、安全な使い方
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「ペニパン」(ペニスバンド)は、ベルト(ハーネス)で腰に固定して使う、陰茎の形をした道具(ディルド)を指す呼び方です。英語では「ストラップオン」と呼ばれます。女性同士のふたりで使われることが多い一方、女性が男性のパートナーの肛門に使う形(英語で「ペギング」と呼ばれます)など、ほかの組み合わせのふたりでも使われます。実践編(第7章)では基本を短く紹介しました。この章では、道具の種類と選び方、つけ方、始め方、話し合い、衛生と予防をくわしくまとめます。
先にお伝えしたいのは、ペニパンそのものを調べた研究がとても少ないことです。この章の「選び方」「つけ方」の多くは、公的な医療機関の道具の衛生の案内と、経験者のあいだでよく語られる工夫をもとにしています。研究で確かめられたものではない部分は、そう書いています。
道具の種類
- ハーネスとディルドが別々の形:ベルトの前の輪(リング)にディルドを差しこんで使う。ディルドを替えられ、洗いやすい。ハーネスには、腰と両脚の付け根にベルトを回す形(2本ベルト)と、下着のような形がある。2本ベルトのほうが、動いた時にずれにくいと言われる
- 一体型:ベルトとディルドがつながっているもの。準備が簡単な一方、ディルドを替えたり、別々に洗ったりできない
- 両端型(ストラップレス・ダブルエンド):ベルトを使わず、片方の端をつける側の腟に入れて支える形や、両方の端をふたりが使う形。つける側の腟の筋肉で支えるため、慣れるまで抜けやすく、角度の調整が難しいと言われる
どの形が合うかを比べた研究は、今回の検索では見つかりませんでした。初めての時は、ハーネスとディルドが別々の形のほうが、大きさを選び直したり洗ったりしやすいでしょう。
選び方①:大きさは「小さめ・細め」から
- 太さと長さ:受け入れる側の、指や今までの道具の経験に合わせ、それより少し細め・短めから。大きすぎるものは、腟や肛門の内側を傷つけることがある(Bromley Sexual Health)
- 形:表面がなめらかで、先が丸いもの。でこぼこが強いものは、慣れてから
- 肛門に使う時:根元が広がっていて、中に入りこまない形のものだけを使う(Bromley Sexual Health)。ハーネス用のディルドは根元が広いものが多いが、両端型は肛門には向かない
- つける側への当たり:ハーネスのディルドの根元は、つける側の恥骨のあたりに当たる。当たりが強い時は、薄いクッションを間にはさむ人もいる(経験者の工夫)
選び方②:素材は「すき間のない素材」を
道具の素材は、表面に目に見えない小さなすき間がある素材(多孔質)と、すき間のない素材(非多孔質)に分けられます。イギリスの公的な性の健康の窓口は、洗いやすく菌が残りにくい、シリコーン・ステンレス・ガラスなどすき間のない素材を選ぶこと、ゼリー状のゴムのようなすき間のある素材は洗っても菌が残りうるので共有しないことを勧めています(Essex Sexual Health Service)。
女性12人が2種類の道具を使ったあとを調べた小さな研究では、洗った24時間後、シリコーン製の道具からはHPV(子宮頸がんなどの原因になるウイルス)が見つからなかった一方、別の素材(TPE、熱で形をつくる柔らかい樹脂)の道具では見つかる例がありました(Anderson ら, 2014)。人数が少なく、見つかったウイルスにうつす力があったかまでは調べていませんが、素材と洗い方の大切さを示す研究です。
- ローションとの相性:シリコーン製の道具に、シリコーン系のローションを使うと、道具が傷むことがある。シリコーン製には水性のローションを(Wirral Community Health and Care NHS)
- ハーネスの素材:布(ナイロンなど)は洗濯しやすい。革は水で丸洗いしにくいので、汚れたら説明書きに従って手入れする
つけ方と調整
ここは研究ではなく、経験者のあいだでよく語られる工夫です。
- 先にひとりでつけてみる:ふたりの時間の前に、つける側が一度つけて、立つ・ひざをつく・横になる、などの姿勢で、ずれや当たりを確かめておく
- ベルトはしっかり、きつすぎず:ゆるいとディルドが上下にぶれて、角度を合わせにくい。きつすぎると、太ももの付け根がしびれたり、すれたりする。指1本が入るくらいが目安と言われる
- 位置:ディルドの根元が恥骨の上に来るように。低すぎると、角度が下を向きやすい
- 動き方:腰だけでなく、ひざや太ももを使って小さく動かす。つける側は思ったより体力を使うので、疲れたら休む
始め方:受け入れる側がペースを決める
- 先に高まる:キスや手でのふれあいで十分に時間をとる。高まっていないと、腟も肛門もゆるみにくい(第3章・第7章)
- ローションはたっぷり:道具と入り口の両方に。乾く前に足す。肛門は自分でぬれないので、とくにたっぷり
- 指から:指1本、2本と慣れてから、道具へ。受け入れる側が上になる姿勢だと、深さと角度を自分で調整しやすい(第7章)
- 入り口で止まる:先だけ入れて止まり、「進めていい?」と聞いてから、少しずつ進める。つける側は、自分の陰茎のように中の感覚が分からないので、言葉と表情で確かめる
- 出し入れより小さく:大きく出し入れするより、入れたまま小さく揺らす方法もある。女性同士では、ディルドの根元が外側のクリトリスに当たるように腰を押し当てる形もよく語られる
女性が男性のパートナーに使う場合(ペギング)は、肛門での性行為と同じ準備と注意が必要です。手順と安全の目安は、男性同士の第7章と、姉妹サイトのアナルのしくみと始め方にまとめているので、ここでは繰り返しません。ペギングをする男女17人に話を聞いた研究では、話し合いを重ねること、信頼、親密さが、よかったこととして挙げられていました(Williams ら, 2023)。人数の少ない聞き取りで、どれくらいの人がしているかを示す研究ではありません。広く引用される「◯%の人が経験」という数字の多くは、商品を売る会社の調査で、ここでは使いません。
話し合いと同意
同意はその都度・一つずつです(第1章)。ペニパンでは、つける側・受ける側の役割が決まりやすいので、「いつでも交代できる」「今日はしない」も選べることを、先に確かめておきましょう。
- どこに使うか(腟・肛門)、どこまで進めるか
- 止める合図(「ストップ」の一言、肩を2回たたく、など)。合図があったら、すぐ動きを止め、ゆっくり抜く
- 痛みを0〜10の数字で伝え合う。鋭い痛みがあれば、その日は終わりにする
- 見た目や役割についての気持ち。つけることに抵抗がある、受けることに抵抗がある、という気持ちも大切に扱う
衛生と性感染症の予防
CDCの性感染症の診療指針は、女性同士で、手や指、道具を腟や肛門に入れるふれあい、とくに道具の共有は、体液を通じて病気がうつる道すじになりうると書いています(CDC, 2021)。
- コンドームをかぶせる:共有する道具には、コンドームをかぶせ、使う人が替わるごとに新しいものに付け替える(CDC, 2021; Essex Sexual Health Service)
- 肛門から腟へは、必ず付け替える:肛門に使ったあと腟に使う時は、コンドームを新しいものに替える。腸の菌が腟に入らないようにするため(SH:24)。替えられない時は、その日は肛門だけ、腟だけ、と決めておく
- 傷やできものがある時は使わない:どちらかの性器や肛門のまわりに、傷・ただれ・できものがある時は、入れる道具を使わない(SH:24)
- 使い終わったら:コンドームを外して捨て、ディルドを説明書きのとおりに洗う。ぬるま湯と香りのないせっけんでよく洗い、すすいで、完全に乾かしてから清潔な袋にしまう(SH:24)。ハーネスも汚れたら洗う
- 人ごとに分ける:複数のパートナーがいる時は、相手ごとに道具を分けるのが安心(SH:24)
性感染症の検査(保健所の無料・匿名検査)と子宮頸がん検診は第4章へ。女性同士でも、細菌性腟症、トリコモナス、HPVなどはうつりうることが分かっています(CDC, 2021)。
やめる目安と、受診の目安
- やめる時:鋭い痛み、出血、ひりひりが続く時。痛みはがまんするものではなく、止めどきのサイン
- 婦人科へ:腟の痛みや出血が続く、いつもとちがうおりもの・におい・かゆみが出た時
- 肛門科へ・すぐ救急へ:肛門の痛みや出血が続く時。道具が取れなくなった時は、自分で取ろうとせず、すぐ救急へ(アナルのしくみと始め方)
- つける側の皮膚:ベルトの当たる太ももの付け根や腰が赤くすれたら、休ませる。かぶれが続く時は皮膚科へ
ふたりで試すお題 道具を選ぶ前に、ふたりで「どこに使うか」「どの太さから始めるか」「止める合図」の3つを決めてみましょう。最初の日は、つける側がつけて動きに慣れるだけで終わってもかまいません。
この章の方法で必ず心地よくなる、という研究の裏付けはありません。痛み・出血・強い違和感があったらすぐに止め、続く時は婦人科・肛門科に相談してください。痛みを感じにくくする麻酔成分入りのローションは、止めるサインが分からなくなるので使わないでください。
参考にした資料
- CDC (2021). Women Who Have Sex with Women (WSW) and Women Who Have Sex with Women and Men (WSWM)(性感染症診療指針)
- Anderson TA, Schick V, Herbenick D, Dodge B, Fortenberry JD (2014). A study of human papillomavirus on vaginally inserted sex toys, before and after cleaning, among women who have sex with women and men. Sexually Transmitted Infections
- Williams DJ, Coto L, Berkowitz D (2023). "It's Absolutely Intense, and I Love It!" A Qualitative Investigation of "Pegging" as Leisure. Leisure Sciences
- Essex Sexual Health Service(イギリス): Let's Talk About Sex Toys
- SH:24(イギリスの公的なオンライン性の健康サービス): How To Clean Your Sex Toys
- Bromley Sexual Health(イギリス): Sex toys
- Wirral Community Health and Care NHS Foundation Trust: Sexual health