実践編 ― ふれあいの流れを、順番に
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この章では「実際に何を、どんな順番で、どう触れ合うか」を手順として説明します。準備と衛生は第2章、痛みを防ぐ考え方は第3章にあるので、ここでは繰り返しません。研究や医療機関の情報と、経験者のあいだでよく語られる工夫は、分けて書いています。時間や強さの数字は、始めるときの目安です。どの段階も、痛みや不快があれば止めること、感じ方には個人差があることを前提に読んでください。
全体の流れと、始める前の確認
流れの一例は「始める前の確認 → キスと全身へのふれあい → 手 → 口 → からだをこすり合わせる → 肛門での性行為(する場合)→ 終わったあと」です。全部をする必要はなく、順番も入れかえてかまいません。アメリカの調査では、いちばん最近の経験でアナルセックスがあったのは37.2%で、キスや手、口でのふれあいのほうが多く見られました(Rosenberger ら, 2011)。挿入をしないふれあいだけでも、十分にひとつの形です。役割も固定せず、その日ごとに決めてかまいません。
- したいこと・したくないことと、やめたいときの合図を確かめる(第1章)
- ローション、コンドーム、タオル、ティッシュを手の届く所に置く
- 爪を短く整え、手を洗っておく(第2章)
途中で確かめる言葉の例:「このくらいの強さでいい?」「もう少しゆっくりがいい?」「ここは大丈夫?」「少し休もうか」。答えを聞いてから次に進みます。強さを「10のうちいくつ?」と数字で聞くと、ずれに気づきやすくなります。言葉にしにくいときは、相手の手に自分の手を重ねて、強さや場所を直接示す方法もあります。
キスと全身へのふれあい
- どこを:最初は性器に触れず、首、肩、背中、胸、おなか、腕、太もも。乳首や耳、首すじは感じやすい人が多い
- 手の形:指先だけでなく、手のひら全体を肌にぴったりつける
- 向き:背中は背骨にそって上から下へ、腕や太ももは付け根から先へ、長くなでる
- 強さと速さ:皮膚が少し動くくらいの軽さから。ひとなでに数秒かけるくらいゆっくり
- 時間の目安:急がず、少なくとも数分から10分ほど。この時間が、力を抜く準備にもなる
- 合わないとき:くすぐったがられたら、手のひらを密着させて少し強く・ゆっくりにする。敏感な所が痛いと言われたら、手のひらで包むだけにする
手でのふれあい
- どこを:陰茎(ペニス)の軸、先端のふくらんだ部分(亀頭)、その裏側の境目にあるすじ状の部分(陰茎小帯)。裏側のすじのあたりは感じやすい人が多い。陰のうはつかまず、もう片方の手のひらでそっと包む程度に
- 手の形:利き手の親指とほかの指で、筒を軽く握るような輪を作る。指先で強くつままない
- 向き:軸にそって根元から先端へ、上下にすべらせる。包皮がある人は、皮ごと一緒に動かすと引っぱられにくい。先端は、手のひらでふわりと包んで小さく回すだけにする
- 強さと速さ:最初は弱く、ゆっくり。反応を見ながら少しずつ強く・速くする。同じ動きをしばらく続けてから変えると、相手が感じ方を確かめやすい
- うるおい:ローションを使うと、こすれによるひりひりを防ぎやすい。手が引っかかる感じがしたら足す
- 合わないとき:ひりひりする→ローションを足し、力を半分にする。感じにくい→速さを上げるより、握る位置(先端寄り・根元寄り)や握る強さを変える
2人のものを一緒にするときは、向かい合って座るか横になり、性器同士を並べます。ローションを使い、2本をまとめて軽く握って上下に動かします。ひとりが握ると強さを合わせにくいので、ふたりの手を重ねると調整しやすくなります。腰を小さく動かして、手の動きと合わせる方法もあります。
経験者のあいだでは、まず相手がひとりでするときの手の動きを見せてもらう、という工夫がよく語られます。握る強さ、速さ、どこを中心に触るかは人によって大きく違うため、見て覚えるのが近道になりやすいようです。
口でのふれあい
- 準備:ふたりとも性器と口を清潔にしておく。口の中の傷や歯ぐきの出血があるときは控える
- 歯を当てない:唇で歯を軽くおおうようにする
- 基本の動き:はじめは唇と舌で先端と裏側のすじをなでる。慣れたら唇で包んで、ゆっくり上下する。舌は裏側に当てておくと歯が当たりにくい
- 深さの調整:利き手で根元を軽く持つと、口に入る深さを自分で決められる。手と口を同時に動かすと、深くしなくても刺激を加えられる
- 時間と休み方:あごや首が疲れたら、手のふれあいに切り替えて休む。交互にしてかまわない
- 合わないとき:のどの奥に当たってえずいたら、浅くして手の動きを増やす。される側は相手の頭を押さえない。苦しいときの合図(肩をたたく等)を決めておく
- 口の中で射精するかどうかは、前もって決めておく
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、クラミジア、淋菌、梅毒、ヘルペスなど多くの性感染症が口でのふれあいでうつること、そのたびにコンドームなどを使えばうつる危険(リスク)を減らせることを説明しています(CDC, 2024a)。味つきのコンドームもあります。のどの検査は第4章を参照してください。
からだをこすり合わせるふれあい
向かい合って、または横に並んで寝て、性器同士やおなか、太ももをこすり合わせます。挿入をしないため負担は少なめで、下着をつけたまま始める人もいます。
- 向きと動き:腰を上下(頭と足の方向)に小さく動かす。大きく動かすより、小さな幅でゆっくりのほうが合わせやすい
- 強さ:上になる人は、ひじやひざで体重を支え、相手を押しつぶさない
- うるおい:肌同士ならローションを少し使うと、こすれによるひりひりが減る
- 合わないとき:痛い・ひりひりする→ローションを足すか、下着越しにする。重い→横向きに並ぶ姿勢に変える
ただし、梅毒、ヘルペス、HPVなど皮膚同士のふれあいでうつる病気は、コンドームでは防ぎきれません(CDC, 2024b)。定期的な検査が大切です(第4章)。
肛門での性行為の手順
肛門の出口には長さ2.5〜4cmほどの通り道があり、その周りに、自分の意思で動かせない内側の輪(内肛門括約筋)と、自分の意思でゆるめられる外側の輪(外肛門括約筋)があります(Ahmed ら, 2023)。その奥の直腸は、背骨の下の骨(仙骨)のくぼみにそって、ゆるやかに曲がっています(Villanueva Herrero ら, 2023)。ペースと深さは、いつも受け入れる側が決めます。次の時間の目安は経験にもとづくもので、長くかかっても問題ありません。
- 1.ローションをたっぷり:指と肛門のまわりの両方に塗る。乾く前に足す
- 2.まず外側に触れる(1〜数分):入れずに、利き手の人差し指か中指の腹で、肛門のまわりを軽く押したり、小さく円をえがいたりする。受け入れる側はゆっくり息を吐き、力が抜けるのを待つ
- 3.指1本から:爪を短くした指の腹を入り口に当て、受け入れる側が息を吐くのに合わせて少しずつ入れる。第1関節くらいで止まり、締めつけがやわらぐまで数十秒待つ
- 4.動かし方:出し入れを急がず、入れたまま止める、ごく小さく回す、を中心にする。はじめは便意に似た感じが出ることがあり、医療の診察でも同じ説明がされている(Villanueva Herrero ら, 2023)
- 5.本数と深さ:1本が楽に動くようになってから、深さや本数を少しずつ増やす。「どう?」「このまま?」と、こまめに聞く
- 6.陰茎を入れる場合:新しいコンドームをつけ、外側にもローションを塗る。受け入れる側の合図で、先端だけ入れて止まり、数十秒待つ。入り口では、少し背中側へ向けると入りやすいことがある。動きは小さな幅で、ゆっくりから始める
- 7.抜くとき:ゆっくり抜く。コンドームの根元を押さえて抜き、ティッシュに包んで捨てる(CDC, 2024b)
合わないときは、一つ前の段階に戻る、ローションを足す、姿勢を変える、今日はここまでにする、のどれを選んでもかまいません。痛みを数字(0〜10)で伝え合い、少しでも鋭い痛みがあれば止めると決めておくと安心です。
前立腺は膀胱のすぐ下、直腸をはさんでおなか側にあります(Singh と Bolla, 2023)。診察では、おなか側の壁に、少し盛り上がった弾力のあるふくらみとして触れます(Villanueva Herrero ら, 2023)。指で触れる場合は、指の腹をおなか側へ軽く曲げ、押しつけずに「軽く押して離す」か「小さく円をえがく」くらいが目安です。感じ方は人によって大きく違い、尿意に似た感じのする人もいます。強く感じすぎるときは、力を弱めるか、少し場所をずらします。
経験者のあいだでよく語られる工夫(研究で確かめられたものではありません):相手と試す前に、ひとりで指を使って感覚を知っておく。ローションは指で入り口の内側まで運ぶ。先端を入れたら一度抜いてローションを足し、また試すことを何度くり返してもよい。汚れが出ても責めない。温かくなる・冷たくなるローションは刺激になりやすいので避ける。
鋭い痛みや出血があれば、すぐに止めましょう。痛みは、ローションや始める前の時間の不足と関係していたという調査があります(Vansintejan ら, 2013)。肛門に使ったコンドームや指のまま、口や相手の性器に移らないでください(A型肝炎などは第4章)。避けたいこと:痛みを感じにくくする麻酔成分入りのローションやスプレー(止めるサインが分からなくなる)、根元にストッパーのない道具、大きすぎる物をいきなり入れること。「ラッシュ」などの亜硝酸エステル類は、日本では指定薬物として所持や使用が禁じられています(厚生労働省)。勃起を助ける薬と一緒に使うと血圧が下がりすぎるおそれがあることも、薬の説明書に書かれています(PMDA)。薬物を使う性行為については第5章を参照してください。
姿勢の選び方
体位の名前より、「誰が動きを調整しやすいか・深さ・負担」で選ぶのがおすすめです。以下は経験にもとづく目安で、どれが楽かは経験者のあいだでも意見が分かれます。
- 受け入れる側が上になり、あおむけの相手にまたがる:受け入れる側が、自分で腰を下ろす深さと速さを決められるため、初めてのときに向く。ひざと太ももに負担がかかるので、疲れたら前に手をついて休む
- ふたりとも横向きで、同じ方向を向いて重なる:動きが小さく浅めになり、腰やひざの負担が少ない。受け入れる側が上の脚を少し前に曲げると、角度を調整しやすい。疲れているときや年齢を重ねてからにも向く
- 受け入れる側があおむけで、ひざを胸に寄せる:顔が見えて声をかけやすい。腰の下に枕を入れると角度を調整できる。深くなりやすいので、入れる側が浅めに加減する
- 受け入れる側がうつぶせ、またはよつんばい:入れる側が動きを決めやすく、深くなりやすい。受け入れる側は、前に進んで離れることで深さを調整できる。顔が見えないので、声かけを多めにする
どの姿勢でも、痛みや疲れが出たら、動きを止めてから姿勢を変えます。腰やひざに持病がある人は、横向きなど負担の少ない姿勢を選びましょう。
終わったあとと、よくある失敗
ぬるま湯でぬらしたタオルやウェットティッシュでやさしく拭き、手を洗います。ローションが肌に残るとかぶれることがあるので、シャワーで流すと安心です。道具は製品の説明にそって洗い、よく乾かします。そのあと、すぐに離れず寄り添って、「よかったこと」と「次にこうしてほしいこと」を一つずつ伝え合いましょう。
- 急ぎすぎて痛い:一つ前の段階に戻る。今日は指まで、と決めてもよい
- 手や口の刺激が強すぎる:弱めからやり直し、数字で強さを聞く
- ローションが途中で足りなくなる:使う前に手の届く所へ置き、ためらわず足す
- 途中で勃起が弱くなる:挿入にこだわらず、手やキスに切り替える(続くときは第5章・第6章)
- 汚れが気になる:タオルを敷いておき、気にしすぎない(第2章)
ふたりで試すお題 手でのふれあいのときに、相手の手に自分の手を重ねて「ちょうどよい強さと速さ」を見せ合ってみましょう。終わったあとに、分かったことを一つずつ話してみてください。
参考にした資料
- Rosenberger JG ら・2011・Sexual behaviors and situational characteristics of most recent male-partnered sexual event among gay and bisexually identified men in the United States・Journal of Sexual Medicine
- Vansintejan J ら・2013・The GAy MEn Sex StudieS: Anodyspareunia Among Belgian Gay Men・Sexual Medicine
- Ahmed A ら・2023・Anatomy, Abdomen and Pelvis: Anal Canal・StatPearls
- Villanueva Herrero JA ら・2023・Rectal Exam・StatPearls
- Singh O, Bolla SR・2023・Anatomy, Abdomen and Pelvis, Prostate・StatPearls
- CDC・2024a・About STI Risk and Oral Sex・アメリカ疾病予防管理センター
- CDC・2024b・Condom Use: An Overview・アメリカ疾病予防管理センター
- 厚生労働省・指定薬物一覧
- 医薬品医療機器総合機構(PMDA)・バイアグラ錠 電子添文