第8章 貝合わせ ― からだを重ねるふれあいを、安全に心地よく
⏱ 読む時間の目安:約9分
「貝合わせ」は、女性同士で外陰部(性器の外側)同士を重ねてこすり合わせるふれあいを指す呼び方です。医学や研究では「トリバディズム」、英語では脚を交差させる形を「シザリング」とも呼びます。実践編(第7章)では流れの一部として短く紹介しました。この章では、研究で分かっていること、性感染症のリスクの正しい理解、姿勢と動き、話し合い、衛生と検査をくわしくまとめます。あわせて、胸同士を重ねるふれあい(いわゆる「乳首ずり」)も最後に取り上げます。試すかどうか、どこまでするかは、その都度ふたりで決めてください。
研究で分かっていること
アメリカ・イギリス・カナダ・オーストラリアに住み、過去1年に女性と性行為をした女性3,116人のネット調査では、性器同士をこすり合わせた経験は99.8%、脚を交差させる形(シザリング)は90.8%でした(Schick ら, 2012)。指で腟に触れる(99.2%)、口でのふれあい(98.8%)と並んで、ほとんどの人が経験している、ごく一般的なふれあいです。一方で、性感染症を防ぐ道具(手袋・デンタルダム・コンドームなど)を使っていた人は4分の1未満でした。
この調査で分かること:性器同士をこすり合わせるふれあいが、女性同士でとても広く行われていること。限界:インターネットで自分から答えた人の調査で、世の中の女性全体の割合とはちがう可能性があります。どの姿勢が心地よいか、どうすれば達しやすいかを比べた研究は、今回の検索では見つかりませんでした。
性感染症のリスク:「挿入しないから安心」ではありません
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の性感染症の診療指針は、女性同士の性行為について、性的指向だけでリスクが低い・ないと決めつけてはいけないと書いています。女性同士でどれくらいうつるかのデータは少ないものの、病気の種類とふれあいの方法でリスクが変わる、という整理です(CDC, 2021)。貝合わせで、とくに知っておきたいのは次の病気です。
- HPV(ヒトパピローマウイルス):皮膚と皮膚がふれるだけでうつり、女性同士でもうつると考えられている。男性との経験がない女性からも見つかっている(CDC, 2021)。子宮頸がんや、いぼ(尖圭コンジローマ)の原因になる
- 性器ヘルペス:女性同士の性器の接触でうつる効率は高くないが、うつることはある(CDC, 2021)。見えるできものがない時や、本人が気づいていない時にも、性器まわりの皮膚からうつることがある(CDC: About Genital Herpes)
- トリコモナス:腟に炎症を起こす小さな原虫。女性同士で直接うつった例が報告されていて、女性と性行為をする女性ではクラミジアや淋菌より多いとされる(CDC, 2021)
- 細菌性腟症:腟の中の菌のバランスがくずれた状態。女性のパートナーがいる女性に多く、パートナーのあいだで菌がやりとりされることが関わっていると考えられている(CDC, 2021)。くわしくは第4章へ
- 梅毒:女性同士でのうつり方のデータは少ないが、口でのふれあいなどでうつった報告がある(CDC, 2021)。日本では2022年以降、年間1万人を超える報告が続いている(厚生労働省)
貝合わせは、体液や皮膚が直接ふれ合うふれあいです。ただれ、水ぶくれ、いぼ、いつもとちがうおりものやにおいがある日は、お休みにしましょう。それが、いちばん確実な予防です。
始める前の準備
- からだを見る:シャワーのついでに、外陰部やそのまわりに、できもの・ただれ・いぼがないかを見る。相手にも、気になることがあれば言ってもらう
- 洗う:ぬるま湯で外側をやさしく洗う。腟の中は洗わない。香りの強いせっけんは、かぶれのもとになりうる
- 陰毛:毛同士がこすれて引っぱられ、痛むことがある。処理するかどうかは好みでよく、処理する時は直前を避ける(そり傷にこすれが重なるとしみる)
- ローション:乾いた皮膚同士はひりひりしやすい。水性かシリコーン系のローションを手の届く所に置く。デンタルダムやラテックスの道具を使う時は、油性(ベビーオイル・ワセリンなど)はラテックスを傷めるので避ける(第3章)
- クッションとタオル:腰の下に入れて角度を変えるためのクッションと、敷くためのタオル
姿勢と動き
研究で比べた「いちばんよい姿勢」はありません。以下は、経験者のあいだでよく語られる形を、どこが重なるか・誰が調整しやすいかで整理した一例です。数字は始める時の目安です。
- 一方があお向け、もう一方が上に重なる:上の人が、下の人の太ももか恥骨のあたりに外陰部を当てる形。上の人が角度と押す強さを決めやすい。上の人は、ひじやひざで体重を支える
- 太ももに当てる:一方が、相手の太ももに外陰部を当てる。性器同士より位置が合わせやすく、初めての時に向く。交代すれば、ふたりとも試せる
- 横向きで向かい合う:体重がかからず疲れにくい。ひざや腰に不安がある人に向く。脚を少しからめると、重なる位置を調整できる
- 脚を交差させる(シザリング):ふたりとも座るか横になり、片脚ずつを相手の脚と交差させ、外陰部同士を近づける。両方の外側がふれやすい一方、股関節に負担がかかりやすく、うまく合わないことも多い。手を後ろについて上半身を支えると、角度を変えやすい
動きは、大きくこするより、押し当てたまま小さく揺らす・小さく円をえがくのが基本です。恥骨(外陰部の上にある骨)同士が強く当たると痛むので、打ちつける動きは避けます。1つの動きを1〜2分続けてから、合う・合わないを決めましょう。重なる場所が合わない時は、腰の下のクッションで高さを変える、太ももに当てる形に変える、のどちらかを試します。
外陰部同士だけでは心地よさが足りない時は、手でクリトリスにふれる、2人のあいだに小さな振動する道具をはさむ、という組み合わせもあります。道具を使う時は、いちばん弱い設定で、コンドームをかぶせます(第7章)。
話し合いと同意
同意は、その都度・一つずつです(第1章)。貝合わせで、とくに話しておくとよいことです。
- どこまでするか(下着の上からだけ・直接・手や道具も使う、など)
- 生理中にするかどうか(HIVは血液を介してうつることがあり、女性同士でうつった報告もあります。生理中は直接のふれあいを控えるか、下着越しにするなど、ふたりで決めておく。CDC: How HIV Spreads; CDC, 2021)
- 股関節やひざ、腰につらいところがないか
- やめたい時の合図(「ストップ」の一言、肩を2回たたく、など)
途中で確かめる言葉の例:「当たってる?」「脚、つらくない?」「もう少しゆっくりがいい?」。合わない時は、笑って姿勢を変えれば大丈夫です。うまく重ならないのは、からだの大きさや形の違いで、どちらかのせいではありません。
衛生と予防
- 下着越し・布越し:下着をつけたまま重ねると、体液が直接ふれ合うのを減らせる。ただし、皮膚同士がふれる場所があれば、HPVやヘルペスは防ぎきれない
- デンタルダムを当てる:ラテックスやポリウレタンの薄いシートを、外陰部のあいだに当てる方法もある。本来は口でのふれあい用で、こすり合わせに使った時の効果を調べた研究は、今回の検索では見つからなかった。ずれやすいので、気休めにしすぎず、症状がある日はしないことを優先する
- 手を洗う・道具を分ける:腟や外陰部にふれた手で、自分の腟や相手の腟にふれる時、肛門にふれた手で腟にふれる時は、手を洗うか手袋を替える。道具を共有する時は、コンドームを人ごとに付け替える。CDCは、細菌性腟症の予防として、道具を共有しない・共有する道具を洗う・保護具を使うことを挙げています(CDC, 2021)
- 終わったあと:ぬるま湯で外側をやさしく洗うか、清潔なタオルで拭く。腟の中は洗わない。おしっこをしておく人も多い(効果を確かめた研究は見つかっていない。第7章)。タオルやシーツは洗濯する
検査と受診の目安
- 保健所の検査:全国の保健所などで、HIVの検査を無料・匿名で受けられる。梅毒などほかの性感染症の検査を一緒にしているところもある(地域によって、項目や日時はちがう)。厚生労働省の「HIV検査・相談マップ」で探せる
- 子宮頸がん検診:男性との経験がなくても、すべての女性に勧められている(CDC, 2021)。受け方は第4章へ
- 婦人科へ行く目安:いつもとちがうおりもの・におい・かゆみ、外陰部のただれ・水ぶくれ・いぼ、性行為の後の痛みや出血が続く時。受診の時は、女性と性行為をしていることをそのまま伝えると、必要な検査を選んでもらいやすい
胸同士を重ねるふれあい(いわゆる「乳首ずり」)
向かい合って胸同士を重ね、乳首や胸をこすり合わせるふれあいです。からだを重ねる流れの中で、キスや抱擁と一緒に行われることが多いものです。このふれあいだけを調べた研究は、今回の検索では見つかりませんでした。以下は、胸の皮膚の一般的な注意と、経験者のあいだでよく語られる方法です。胸のしくみや、ひとりでの触れ方は、姉妹サイトの胸で感じる一人時間にまとめています。
- 姿勢:横向きで向かい合うか、一方があお向けで、もう一方が上から重なる。上の人はひじで体重を支え、胸に全体重をかけない。向かい合って座る形なら、ふたりが同じくらいの高さになる
- 動き:大きくこするより、胸を軽く押し当てたまま、左右や上下に数cm小さく揺らす。乳首同士が当たる位置を探す時は、上半身の角度を少しずつ変える。胸の大きさや形が違っても、当たる場所が違うだけで、どちらがよい・悪いということはありません
- うるおい:乳首と乳輪の皮膚は薄く、乾いたままこすり続けると、赤くなったり切れたりする。水性のローションか、肌用のマッサージオイルを少しつける。オイルを使った後にデンタルダムやラテックスの道具を使う時は、一度拭き取る(油はラテックスを傷めるため)
- 強さ:押しつけすぎない。ひりひりしたら、その日は胸を休ませる
- 確かめる言葉:「重くない?」「この強さでいい?」
- 気をつけたい時:月経の前などで胸が張って痛む時、授乳中、乳首に傷やただれがある時は控える。乳首からの血の混じった分泌物、しこり、治りにくいただれに気づいたら、刺激で様子を見ずに乳腺外科などで相談を(くわしくは上のコラムへ)
ふたりで試すお題 次の時間に、「太ももに当てる形」と「横向きで向かい合う形」の2つだけを、1〜2分ずつ試してみましょう。終わったあとに、「当たりやすかった形」と「疲れにくかった形」を1つずつ話してみてください。
この章の方法で必ず心地よくなる、という研究の裏付けはありません。痛み、出血、ただれ、水ぶくれ、いぼがあれば中止し、続く時は婦人科に相談してください(第5章)。股関節やひざに痛みが出たら、すぐ姿勢を変えましょう。
参考にした資料
- Schick V, Rosenberger JG, Herbenick D, Reece M (2012). Sexual behaviour and risk reduction strategies among a multinational sample of women who have sex with women. Sexually Transmitted Infections
- CDC (2021). Women Who Have Sex with Women (WSW) and Women Who Have Sex with Women and Men (WSWM)(性感染症診療指針)
- CDC (2024). How HIV Spreads
- CDC (2024). About Genital Herpes
- CDC (2025). About Genital HPV Infection
- 厚生労働省:梅毒
- 厚生労働省:HIV検査・相談マップ













