第4章 予防と検査
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「女性同士なら、性行為でうつる病気(性感染症)の心配はいらない」。そう聞いたことがある人もいるかもしれません。けれど、これは誤解です。男女の性行為とくらべて、うつる病気の種類や、うつる道すじがちがうだけで、うつる可能性はゼロではありません。この章では、どのようにうつるのか、何をすれば防ぎやすくなるのか、どこで検査を受けられるのかをまとめます。
「心配ない」は誤解
アメリカの国の感染症対策の機関(アメリカ疾病予防管理センター、CDC)は、性感染症の診療の手引き(診療指針)で、女性と性行為をする女性について、はっきり書いています。どの性別の人を好きになるか(性的指向)だけを理由に、性感染症にかかるおそれが低い、またはない、と決めつけてはいけない、という内容です。性器同士が触れ合うこと、指や手、口での触れ合い、道具の共有などを通じて、うつることがあるためです。
オーストラリア・メルボルンの、性の健康をみるクリニックの研究があります。2011〜2019年に受診した女性3万6千人あまりの記録を調べました。過去1年に女性とだけ性行為をした女性では、クラミジア(1.2%)や梅毒(0.0%)は少なめでした。一方で、腟の中の菌のバランスがくずれる病気(細菌性腟症)は14.8%で、男性とだけ性行為をした女性(7.7%)より多く見られました(Engel ら, 2022)。パートナーの性別によって、気をつけたい病気の種類がちがうことが分かります。ただ、クリニックを受診した人の記録なので、世の中の女性全体の割合とはちがう可能性があります。
主なうつる経路
- 性器同士や、性器と手・指の触れ合い(体から出る液や、皮膚、体の内側のやわらかい膜がふれること)
- 口と性器の触れ合い(ヘルペスという、水ぶくれができる病気など)
- 洗わずに、あるいはコンドームを付け替えずに共有した道具
- 小さな傷から入りこむこと(生理中や、からだが乾いているときは傷つきやすい)
厚生労働省の案内でも、次のように説明されています。うつった場所の、体の内側のやわらかい膜(粘膜)や、体から出る液(分泌液)が相手に触れたり、皮膚や粘膜の小さな傷から病気のもと(病原体)が入ったりして、うつります。また、本人が気づくような症状(自覚症状)の少ない性感染症が多いとされています。
予防の方法
- 道具を共有するとき:コンドームをかぶせ、人が替わるごとに新しいものに付け替える。使ったあとは説明書どおりに洗う(第3章)
- 口と性器の触れ合い:デンタルダム(ラテックスというゴムや、ポリウレタンという素材でできた、口と性器の間に当てる薄いシート)を使う。毎回新しいものを使い、始める前から終わるまで当てたままにする。デンタルダムが手元にないときは、ラテックスかポリウレタンのコンドームを切り開いて代わりにできます(CDC)
- 手や指で触れるとき:使い捨ての手袋を使う。自分と相手で触れる場所が替わるときは付け替える
- すべりをよくする液(ローション):ラテックス製品には、水が主成分のもの(水性)か、シリコーン系を。油が主成分のもの(油性)は破れの原因になります
- 症状があるとき:ただれ、できもの、いつもとちがうおりものがあるときは、その日はお休みして受診を
いろいろな国の、女性と性行為をする女性の調査では、こうした道具を使っている人は4分の1未満でした(Schick ら, 2012)。完璧を目指すより、「道具の共有にはコンドーム」など、ふたりで続けられる一つから始めてみましょう。
細菌性腟症との関係
細菌性腟症は、腟の中の菌のバランスがくずれた状態です。おりものやにおいの変化で気づくことがあります。女性と性行為をする女性に多いことが知られています。
女性と性行為をする女性239人を、1年間追いかけた研究があります。細菌性腟症になったことのある新しいパートナーがいると、かかるおそれが約3.6倍になっていました。口で性器に触れられる回数が多いほど、かかりやすい傾向も見られました。一方で、ある種類の乳酸菌(ラクトバチルス・クリスパタス)を持っていた人は、かかりにくい傾向がありました(Marrazzo ら, 2010)。時間を追って、性行為との関係を調べたのがこの研究の強みです。ただ、期間中にかかったのは40人と数が限られています。原因を一つに決められるほどの証拠ではありません。
CDCの手引きでは、症状のない人を定期的に検査することは勧めていません。代わりに、症状を知っておくこと、道具を共有しないことなどが挙げられています。気になる症状があれば、女性の体をみる診療科(婦人科)を受診しましょう。
HPVと子宮頸がん検診
子宮の入り口にできるがん(子宮頸がん)の多くには、性行為でうつるウイルス(HPV、ヒトパピローマウイルス)への感染が関わっています。女性と性行為をする女性149人を調べた研究では、HPVが30%に見つかりました。男性との性行為の経験がない人でも、19%に見つかりました(Marrazzo ら, 1998)。149人と人数は多くありません。それでも、女性同士の性行為でもHPVがうつりうることを示した、大切な研究です。
国立がん研究センターは、子宮の入り口のがんを調べる検査(子宮頸がん検診)について、次のように勧めています。20歳以上で2年に1回、細胞をとって調べる検査(細胞診)を受ける。または、30歳以上で、HPVがいるかだけを調べる検査(HPV検査単独法)を受ける。CDCも、性的指向に関係なく、すべての女性に子宮頸がん検診をすすめるよう、医療者に求めています。
「男性との経験がないから検診はいらない」と言われたり、自分でそう思い込んだりすることがあります。女性同士の性的な接触の経験があれば、受診のときにそのまま伝えて相談しましょう。HPVワクチンは、受けられる年齢や、国や自治体がお金を出す対象(公費の対象)が決まっています。お住まいの市区町村(自治体)や医療機関に確かめてください。
保健所で検査を受ける
保健所では、エイズの原因になるウイルス(HIV)の検査を、無料で、名前を言わずに(匿名で)受けられます。梅毒の検査も一緒に受けられるところが増えています。クラミジアや淋菌の検査をしているところもあります(地域によって、項目や費用、日時はちがいます)。厚生労働省の「HIV検査・相談マップ」や「性感染症検査・相談マップ」で、近くの検査場所を探せます。
- 新しいパートナーができたとき
- 気になる症状があるとき(症状が消えても、治ったとは限りません)
- ふたりで、道具やデンタルダムを使うかどうか決める前
ふたりで一緒に検査を受けて、結果を見せ合うカップルもいます。無理に見せる必要はありません。それでも、話題にしやすくなるきっかけになります。
ふたりで試すお題 近くの保健所の検査日を、ふたりで一緒に調べてみましょう。あわせて、次の時間に「道具を共有するときはコンドームを付け替える」を試してみて、やりやすかったかを話してみてください。
参考にした資料
- Women Who Have Sex with Women (WSW) and Women Who Have Sex with Women and Men (WSWM)(CDC 性感染症診療指針)
- Engel JL ほか (2022). Patterns of Sexual Practices, Sexually Transmitted Infections and Other Genital Infections in WSWO, WSMO and WSMW. Archives of Sexual Behavior
- Marrazzo JM, Thomas KK, Fiedler TL, Ringwood K, Fredricks DN (2010). Risks for acquisition of bacterial vaginosis among women who report sex with women: a cohort study. PLoS One
- Marrazzo JM, Koutsky LA, Stine KL ほか (1998). Genital human papillomavirus infection in women who have sex with women. Journal of Infectious Diseases
- 子宮頸がん検診について(国立がん研究センター がん情報サービス)
- これって、性感染症?(HIV検査・相談マップ/厚生労働省)













