加害をしない・させないために
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このページは、性暴力を防ぐための法律や考え方について書いています。被害の場面の描写はしていません。それでも、性暴力の話題でつらくなったら、途中で閉じてかまいません。被害の相談は、ワンストップ支援センター 📞 #8891、警察の性犯罪被害相談電話 📞 #8103、SNS相談 Cure time(毎日17〜21時)でできます。ページの最後にもまとめています。
前の回「性犯罪はなぜ許されないのか」では、性暴力が、被害を受けた人の心と体、その後の人生にどれほど大きな影響を与えるかを見てきました。性暴力をなくすいちばん確かな方法は、加害をしないこと、そして周りが加害をさせないことです。この回では、次のことをまとめます。日本の法律、よくある思い込み、画像による加害、周りの人ができること、そして「自分が加害をしてしまいそうで不安な人」の相談先です。
出発点はシンプルです。性的な行為には、おたがいが自分の気持ちで決めた同意が必要です。相手が同意していない、または同意できない状態なら、その行為はしない。それだけで防げる被害があります。
日本の法律 ― 2023年の改正で、犯罪と罰を定めた法律(刑法)の何が変わったか
2023年7月13日から、性犯罪についての決まりが大きく変わりました(法務省, 2023a)。主なポイントは次のとおりです。
- 同意のない性交などを罰する罪(不同意性交等罪)・同意のないわいせつな行為を罰する罪(不同意わいせつ罪):以前の強制性交等罪などが改められました。原因の例として、8つが示されています。暴行や脅迫、心身の障害、アルコールや薬物の影響、意識がはっきりしない状態、考える時間の余裕がないこと、予想外のことへのこわさや驚き(いわゆるフリーズ)、虐待による心の反応、立場による力関係への不安です。これらによって「同意しない意思を形成し、表明し、全うすることが難しい状態」(同意しない気持ちを持つこと、伝えること、最後まで通すことが難しい状態)で性的な行為をすると、罰せられます
- 夫婦や恋人の間でも成立する:結婚しているかどうか(婚姻関係があるかどうか)に関係なく罪になることが、法律の条文にはっきり書かれました
- 性行為への同意ができるとされる年齢(性交同意年齢)の引き上げ:16歳未満の子どもへの性的な行為は、それだけで罰せられる対象になります(相手が13歳以上16歳未満の場合は、行為をした人が5歳以上年上のとき)。わいせつな目的で16歳未満の子どもに会うことを求めたり、性的な画像を送るよう求めたりすることも犯罪になりました
- 罪を問える期限(公訴時効)の延長:不同意性交等罪は15年、不同意わいせつ罪は12年、けがをさせた場合などは20年に延びました。被害のときに18歳未満だった場合は、18歳になるまでの期間がさらに加わります
- 性的な姿を勝手に撮ることなどを罰する法律(性的姿態撮影等処罰法):人の性的な部位や下着などを、正当な理由なくこっそり撮影すること(いわゆる盗撮)や、その画像を人に渡すことなどが、全国共通のルールで罰せられるようになりました
法務省は、時効を延ばした理由を次のように挙げています。性犯罪は、恥ずかしさや自分を責める気持ちから、被害を打ち明けにくいものです。周りも気づきにくいため、被害が表に出にくいからです(法務省, 2023a)。
刑罰も重いものです。不同意性交等罪は、5年以上の、期間を決めて刑務所に入れる刑(有期拘禁刑)です。不同意わいせつ罪は、6月以上10年以下の拘禁刑とされています(高知県, 2023)。性的な姿の撮影は、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金です。撮影した画像を、だれとも決めずに大勢の人へ渡したり(不特定多数への提供)、公開したりすると、5年以下の拘禁刑や500万円以下の罰金などになります(法務省, 2023b)。
2024年の1年間に警察が把握した件数は、不同意性交等が3,936件、不同意わいせつが6,992件、性的姿態撮影等処罰法違反が8,436件でした(法務省, 2025)。これは届け出があった件数です。前の回で見たように、だれにも言えずにいる被害は、さらに多いと考えられます。
加害の責任は、刑罰だけではありません。被害を受けた人は、加害をした人に、受けた損害をお金でつぐなうよう求めること(損害賠償の請求)ができます。警察庁も、被害者向けに、その手続きを手伝ってくれるところを案内しています(警察庁, 犯罪被害者等施策)。
よくある思い込みを正す ― 「レイプ神話」
性暴力については、まちがった思い込みがあります。被害を受けた人を責め、加害をした人の責任を軽くするような思い込みです。研究では、これを「レイプ神話」と呼んできました(Payne ら, 1999)。大学生の男性を対象にした研究を、たくさんまとめた分析(メタ分析)があります。そこでは、こうした思い込みを受け入れていることや、周りの仲間に性暴力を認める雰囲気があることが、加害をしやすくなることと関係する要因の一つでした(Spencer ら, 2022)。思い込みを正すことは、加害を防ぐことにつながります。
- 「嫌がっていなかった」:黙っていた、動かなかったことは同意ではありません。強いこわさで体が動かなくなることは、よくある自然な反応です。法律でも、いわゆるフリーズの状態は、同意できない原因の一つとされています(法務省, 2023a)
- 「付き合っているから」「夫婦だから」:関係があっても、そのたびに同意が必要です。不同意性交等罪は、夫や妻(配偶者)の間でも成立します。前に同意したことや、一つの行為に同意したことは、別の行為への同意にはなりません(内閣府男女共同参画局, 2023)
- 「酔っていたから」:相手がお酒や薬物の影響で判断できない状態のときは、同意できる状態とはいえません。法律でも、原因の一つとして挙げられています。自分が酔っていたことも、言い訳にはなりません
- 「服装や行動が誘っていた」:どんな服装でも、どんな行動でも、それは性的な行為への同意ではありません。内閣府は、こうした言葉を、被害者をさらに傷つける「二次被害」の例として挙げています(内閣府男女共同参画局, 2024)
迷ったら、確かめる。相手がはっきり「したい」と言える状態であること、そして途中でもやめられる関係であることが、同意の土台です。確かめられないとき、相手の反応が分からないときは、しない、が答えです。
画像による加害も、重大な被害を生む
性暴力は、体に触れる行為だけではありません。同意のない撮影、画像の送りつけ、交際中に撮った画像を別れたあとに広めることも、深刻な被害を生みます。文章や画像を作るAI(生成AI)で、人の画像を性的に作り変えること(ディープフェイク)も同じです。アメリカの調査では、女性の4人に1人以上、男性の6人に1人が、こうしたネットや機器の技術を使った性暴力を経験していました(CDC, 2025)。
日本では、撮影や、その画像を人に渡すことは、性的姿態撮影等処罰法で罰せられます。元交際相手などの性的な画像を、本人の同意なく広めることは、「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」で罰せられます。警察庁などは、生成AIで人の画像を性的に作り変えてSNSで共有することが、犯罪や人権を傷つけること(人権侵害)につながるおそれがあると注意を呼びかけています。そして、一度広まった画像は二度と消せないと伝えています(警察庁ほか, 2025)。「冗談のつもり」「仲間内だけ」は、被害の大きさを少しも減らしません。
画像を広められてしまったときは、法務局の人権相談で、削除の依頼について助言や対応を受けられます。民間のセーフラインでも、削除の依頼を受け付けています(内閣府男女共同参画局, 相談窓口)。
周りの人ができること ― 第三者介入
性暴力が起きそうな場面に居合わせたとき、周りの人の小さな行動が、被害を防ぐきっかけになることがあります。このように、その場にいる周りの人が間に入ることを「第三者介入(バイスタンダー介入)」といいます。
- 話しかけたり、用事を作ったりして、その場の流れを変える
- 「大丈夫?」と本人に直接声をかけ、その場を離れられるようにする
- 一人で難しいときは、友人、お店の人、警備の人、警察など、ほかの人の助けを呼ぶ
- その場で何もできなかったときも、あとで本人に声をかけ、相談先を伝える
いちばん大切なのは、自分の安全も守ることです。危険を感じたら、一人で立ち向かわず、110番などで助けを呼んでください。
大学生や高校生向けの、第三者介入のプログラムを調べた研究のまとめ(システマティックレビュー)があります。決まった手順で研究を集めて調べたものです。それによると、プログラムを受けた人は、実際に間に入る行動が増えていました。一方で、加害そのものを減らす効果は確かめられていません。知識や考え方への効果も、研究によってばらばらでした(Kettrey ら, 2019)。周りの行動は大切な支えですが、それだけで性暴力がなくなるわけではありません。加害をしない一人ひとりの選択と、社会全体の取り組みが、両方とも必要です。
「自分が加害をしてしまいそう」と不安なときは
性的な衝動をおさえられないかもしれない、同じことをくり返してしまいそうだ、と不安を感じている人もいるかもしれません。その不安に気づけたことは、被害を生まないための大切な一歩です。ひとりで抱えず、行動に移す前に専門家に相談してください。
- 精神保健福祉センター:各都道府県と、大きな市(政令指定都市)にある、心の健康についての公的な相談窓口です。厚生労働省のサイトで一覧を確認できます(厚生労働省, 2024)
- 専門の治療プログラム:性的な問題行動をくり返さないための治療を、専門に行う医療機関や団体もあります。たとえば、NPO法人が運営する性障害専門医療センター(SOMEC)は、考え方や行動のくせを見直す治療(認知行動療法)などのプログラムを、オンライン中心で行っています。初回の面談は無料としています(SOMEC)。榎本クリニックは、2006年から、性的な問題行動をくり返してしまう人のための専門外来プログラムを行っています(榎本クリニック)。費用や条件は各機関で確認してください
相談することは、弱さではありません。だれかを傷つける前に助けを求めることは、自分と、まだ出会っていないだれかの人生を守る選択です。
相談先
性暴力の被害:性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター 📞 #8891(通話料無料。NTTひかり電話からは 📞 0120-8891-77。24時間受付、または受付時間外は夜間休日コールセンターで対応。一部のセンターを除く)
警察に相談したいとき:性犯罪被害相談電話 📞 #8103(ハートさん。24時間、通話料無料)。身の危険が迫っているときは110番へ。
電話が難しいとき:性暴力に関するSNS相談 Cure time(キュアタイム、https://curetime.jp/。毎日17〜21時。名前を明かさずに(匿名で)相談できます)
性的な画像を広められたとき:法務局の人権相談、セーフライン(削除依頼の受付)。内閣府「性犯罪・性暴力相談窓口」のページにまとめられています。
加害をしてしまいそうで不安なとき:お住まいの地域の精神保健福祉センター(厚生労働省「全国の精神保健福祉センター」で連絡先を確認できます)
ほかの窓口も含めた一覧は、別ページ「相談先・カウンセラーの案内」にまとめています。番号や受付時間は変わることがあるので、公式ページもあわせて確認してください(2026年9月時点で確認)。
参考にした資料
- 法務省(2023a)性犯罪関係の法改正等 Q&A
- 法務省(2023c)リーフレット「性犯罪の規定が2023年(令和5年)7月13日から変わりました」
- 法務省(2023b)性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律案要綱
- 高知県(2023)刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律(概要資料)
- 法務省(2025)令和7年版 犯罪白書 第1編第1章第2節4 不同意性交等・不同意わいせつ等
- 警察庁:犯罪被害者等施策ホームページ「性的な被害」
- 内閣府男女共同参画局(2023)性暴力に関するパンフレット(一般用)「あなたは悪くない」
- 内閣府男女共同参画局・厚生労働省(2024)医療機関向けリーフレット(二次被害について)
- 内閣府男女共同参画局:性犯罪・性暴力相談窓口
- 警察庁・内閣府・こども家庭庁・文部科学省(2025)「そのAIの使い方・・・犯罪かも」(性的ディープフェイクの被害・加害防止の啓発資料)
- 警察庁(2025)私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律の運用上の留意事項等について(通達)
- CDC(2025)About Sexual Violence
- Payne DL, Lonsway KA, Fitzgerald LF(1999)Rape myth acceptance: Exploration of its structure and its measurement using the Illinois Rape Myth Acceptance Scale. Journal of Research in Personality 33: 27–68
- Spencer CM ら(2022)Risk markers for male perpetration of sexual assault on college campuses: A meta-analysis. Trauma, Violence, & Abuse
- Kettrey HH, Marx RA, Tanner-Smith EE(2019)Effects of bystander programs on the prevention of sexual assault among adolescents and college students: A systematic review. Campbell Systematic Reviews 15: e1013
- 厚生労働省(2024)全国の精神保健福祉センター(令和6年12月現在)
- NPO法人 性犯罪加害者の処遇制度を考える会 性障害専門医療センター SOMEC:性障害治療のご案内
- 榎本クリニック:性依存症デイナイトケア