何でも手に入る時代の性 ― 便利さと落とし穴、そして学びの土台
⏱ 読む時間の目安:約6分
スマートフォンを開けば、性についての情報も、出会いのきっかけも、大人向けのグッズも、数分で手に入る時代になりました。最近は、話し相手になってくれるAI(人工知能)まで出てきています。編集部は、性を「隠すべき悪いもの」とは考えていません。性は、自分をいたわる一人の時間にも、おたがいを大切にするふたりの時間にもなります。暮らしの大切な一部です。
ただ、手に入りやすくなったからこそ、情報の選び方や、人との距離の取り方が大事になりました。このシリーズ「現代社会と性」の1本目では、今の様子をデータで確かめます。そのうえで、便利なところと落とし穴を整理し、世界で共有されている性教育の考え方を紹介します。なお、性犯罪や同意のない行為は、どんな理由があっても許されません。この考えは、シリーズを通して変わりません。
数字で見る「手に入りやすさ」
総務省の調査では、2025年8月末の時点で、スマートフォンを持っている世帯は91.8%でした。インターネットの使い道でいちばん多いのは「SNS(無料通話を含む)の利用」で、82.3%にのぼります(総務省, 2026)。性の情報も、多くの人にとって、まずスマホの画面から入ってくるものになっています。
実際、海外の支援活動をしている民間団体(国際協力NGO)のジョイセフが、15〜29歳の5,800人に行った調査(2023年8月)があります。性の情報をどこから得ているかについて、半数以上がネットやSNSを挙げました(ジョイセフ, 2023)。
出会いの形も変わりました。こども家庭庁が2024年7月に、15〜39歳の2万人にインターネットで行ったアンケート(ウェブ調査)があります。ここ5年ほどの間に結婚した人のうち、配偶者と出会ったきっかけを「マッチングアプリ」と答えた人が25.1%で、いちばん多くなりました。「職場や仕事関係」(20.5%)よりも多い数です(こども家庭庁, 2024)。海外でも同じ流れがあります。米国では2022年7月の調査で、大人の30%が、出会いを探すサイトやアプリ(マッチングサイトやアプリ)を使ったことがあると答えています(Pew Research Center, 2023)。
便利さの面
- 人に聞きにくいことを、一人で落ち着いて調べられる
- 住んでいる地域や職場の外にも、出会いのチャンスが広がる
- 好きになる相手の性別(性的指向)や、自分の性をどう感じるか(性自認)に悩む人が、同じ思いの仲間や支援の情報にたどり着きやすくなる
- 検査・避妊・相談窓口など、健康を守る情報にすぐ手が届く
たとえば、性交のあとに妊娠を防ぐために飲む薬(緊急避妊薬)は、2026年2月2日から、研修を受けた薬剤師がいる薬局で、医師の処方箋なしで買えるようになりました(厚生労働省, 2026)。必要な人が、必要なときに、情報やサービスにたどり着けること。これは、手に入りやすい時代の大きなよいところです。
落とし穴の面
一方で、手軽さには影もあります。いちばんの問題は、情報の質がばらばらなことです。ネット上には、医学的な根拠のない話や、大げさな体験談、商品を売るための情報が、正しい情報と見分けがつかない形で並んでいます。先ほどのジョイセフの調査では、性的な行為への同意(性的同意)を「大事だと思う」と答えた若者が9割を超えました。その一方で、「具体的に性的同意とはどういうものか、正直わかっていない」という答えも4割を超えていました(ジョイセフ, 2023)。ふれる情報が増えても、理解が深まるとはかぎらないということです。
もう一つは、画像や個人の情報があっという間に広がることです。警察に寄せられた、性的な画像についての相談は、2025年に2,514件でした。法律ができてから、いちばん多い数です(警察庁, 2026)。一度ネットに出た画像を完全に消すのは難しく、被害は長く続きます。この点は、第3回と第4回でくわしく扱います。
さらに、AIとの会話やアプリでのやり取りは、気軽で心地よいものです。ただ、使い方によっては、人とのつながりを細くしてしまうこともあると言われています。AIの話し相手については、研究が始まったばかりで、まだ分かっていないことがたくさんあります(第4回で紹介します)。
情報を選ぶときは、「だれが書いたのか(国などの公的な機関・医療機関・研究者か)」「いつの情報か」「何かを売ろうとしていないか」の3つを確かめる習慣をおすすめします。
世界の性教育の考え方 ― ユネスコの手引き(ガイダンス)
では、何を土台に考えればよいのでしょうか。参考になるのが、国連で教育や文化を受け持つ機関(ユネスコ)が2018年に改訂版を出した「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」です。これは、世界保健機関(WHO)や国連合同エイズ計画、国連人口基金、ユニセフ、UNウィメンといっしょに作られました。5歳から18歳以上までを対象に、年齢に合った学びの内容を示しています(UNESCO ほか, 2018)。
このガイダンスは、性の学びを、体のしくみだけにとどめていません。人間関係、価値観と人権、社会的な性のあり方(ジェンダー)、暴力と安全、健康のための力(スキル)、妊娠や出産もふくむ性の健康(性と生殖の健康)まで広くふくむ、「包括的」なものと考えています。そして、性を前向きに扱い、尊重、平等、相手の気持ちに寄りそうこと(共感)、責任といった価値を大切にすることをかかげています(UNESCO, 2026)。
ユネスコは、これまでの研究を調べた結果として、次のことを紹介しています。幅広い性教育をしても、性行動や、性的に危険な行動、性行為でうつる病気(性感染症)の割合は増えなかったこと。そして、「性交をしないこと」だけを教える教育では、初めての性交が早まるのを防げなかったことです(UNESCO, 2018)。「教えると性行動が増える」という心配には、あまり根拠がないということです。
WHOも、性の健康を「病気がないこと」だけだとは考えていません。性や、性のあり方全体(セクシュアリティ)に関わる、体と心と社会のよい状態のことだとしています。そこには、強いられることや差別、暴力のない、楽しく安全な性の経験を持てる可能性もふくまれます(WHO)。
大人にとっても、学び直しに遅すぎることはありません。「気持ちよさ」と「安全」と「相手への敬意」は、ぶつかり合うものではありません。どれも同じ土台の上に並ぶものです。
このシリーズで考えていくこと
この先の5本では、次のテーマを順に取り上げます。同意の文化(第2回)、性犯罪を許さないために(第3回)、デジタル時代の付き合い方(第4回)、多様な性と孤独・セックスレス(第5回)、性の健康を守る習慣(第6回)です。性別や、好きになる相手の性別、年齢で決めつけず、「したくない」という選択もふくめて尊重することを大切にしています。
何でも手に入る時代だからこそ、自分の心と体、そして相手の心と体を大切にするための知識を、いっしょに確かめていきましょう。
性暴力の被害にあったときや、不安があるときは、性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(全国共通番号 📞 #8891、通話料無料。受付時間は地域により異なり、時間外は夜間休日コールセンターが受け付けるセンターもあります)に相談できます。相談先の一覧は、第3回と第6回、そして別ページ「相談先・カウンセラーの案内」にまとめています。
参考にした資料
- 総務省(2026)令和7年通信利用動向調査の結果
- こども家庭庁(2024)若者のライフデザインや出会いに関する意識調査 ウェブアンケート調査結果(速報)
- Pew Research Center(2023)Key findings about online dating in the U.S.
- ジョイセフ(2023)性と恋愛 意識調査2023
- 警察庁(2026)令和7年におけるストーカー事案、配偶者からの暴力事案等、児童虐待事案等への対応状況について
- 厚生労働省(2026)要指導医薬品である緊急避妊薬の販売が可能な薬局等の一覧
- UNESCO ほか(2018)International technical guidance on sexuality education: an evidence-informed approach(改訂版)
- UNESCO(2018)UN urges Comprehensive Approach to Sexuality Education
- UNESCO(2026更新)Comprehensive sexuality education: For healthy, informed and empowered learners
- World Health Organization: Sexual health