第13章 言葉責め ― ほめる・伝える・焦らす言葉を、同意と手順で深める
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「言葉責め」は、ふれあいの最中に、言葉で相手の気持ちを高めることです。強い言葉で相手を責めることだけを指すのではありません。「きれい」「好き」といったほめ言葉、「今、すごく気持ちいい」と自分の感じていることを伝える言葉、「もう少しゆっくり」というお願い、「まだだめ」と焦らす言葉、そして、ふたりで決めた役になりきる言葉まで、幅の広いものです。
この章では、研究で分かっていること、始める前の話し合いと止める合図、やさしい言葉から少しずつ進める手順、声や間の取り方、段階ごとの例、うまくいかなかった時の立て直し方、よくある失敗までをまとめます。内容は、男性同士・女性同士のふたりにもそのまま当てはまります。研究で確かめられた内容には出典を( )で示し、経験者のあいだでよく語られる工夫はそう書いて分けています。
言葉責めは、しなくてもよいものです。静かなふれあいが好きな人もいます。どちらかが気が進まない時は、言葉を使わない時間を選んでかまいません。
言葉責めとは:ほめ言葉から、役になりきる言葉まで
ふれあいの最中の言葉は、おおまかに次の5つに分けられます。
- ほめる・愛情を伝える:「きれい」「かわいい」「大好き」「会いたかった」
- 自分の感じていることを伝える:「それ、すごく気持ちいい」「ドキドキしてる」
- お願い・指示:「もう少しゆっくり」「そのまま続けて」「目を閉じて」
- からかう・焦らす:「まだだめ」「どうしてほしいか、言ってみて」
- 役になりきる:リードする側・リードされる側に分かれて、少し強気な言葉や、従う言葉を使う
ある研究では、ふれあいの最中の言葉を集めて分類すると、大きく2つのまとまりに分かれました。一つは、ほめる・感じていることを伝える・愛情を伝えるなど、ふたりの気持ちを近づける「おたがい型」。もう一つは、リードする・従う・相手を自分のものだと言うなど、自分の興奮を中心にした「自分中心型」です。多くの人が何らかの言葉を使っていると答え、使い方の男女差は小さいものでした(Jonason ら, 2016)。
研究で分かっていること(と、分かっていないこと)
- 性について話すことと満足:93の研究、約3万8千人分をまとめた分析では、パートナーと性について話すことは、性生活の満足と中くらいの強さで関係していました。話す回数よりも、「話しやすい・うまく伝わる」という話し方の質のほうが、満足との関係が強くなっていました(Mallory, 2022)。48の研究をまとめた別の分析でも、性について話すことは、欲求・高まり・オーガズムなどと関係していました(Mallory ら, 2019)
- 最中の言葉そのものは、満足と結びつかないという結果も:ある調査では、最中に声や表情、からだの動きで気持ちよさを伝えることは満足と関係していましたが、言葉で伝えることは満足を予測しませんでした(Babin, 2013)。カナダのカップル127組の学会発表でも、言葉より、言葉以外の伝え方のほうが満足と関係していました。研究者は、最中の言葉は「相手を喜ばせるために言う」「決まり文句を言う」ことになりやすく、本心に聞こえにくいのかもしれない、と考えています(Millman ら, 学会発表)
- 大切なのは、ふたりに合った伝え方:398人の調査では、言葉か、言葉以外かという伝え方の種類よりも、「自分たちの伝え方に満足しているか」が、性生活の満足とつながっていました(Blunt-Vinti ら, 2019)
- 好まれやすいのは「おたがい型」:ドイツ語・イタリア語・英語を話す433人に、言葉を聞いた時の気持ちを想像して答えてもらった研究では、ほめる・感じていることを伝えるといった「おたがい型」のほうが、リードする言葉などの「自分中心型」より、全体として好まれると予想されていました。とくに長く付き合う関係でその傾向が強く、自分中心型の言葉は、男性のほうが女性より好むと予想していました(Jonason ら, 2025)
- 言葉は、少しずつ身につく技術:カナダで27人に話を聞いた研究では、多くの人が、最中に伝え合うことで心地よさや親密さが高まり、不安が減ったと話していました。一方で、雰囲気を壊したくない、相手を傷つけたくない、どう思われるか怖い、という理由で、言葉を控える人も多くいました。伝え合うことは、時間をかけて身につく技術として語られていました(Séguin, 2024)
これらの研究で分かること:性について話す関係ほど満足が高い傾向があること、最中は言葉だけでなく、声・息・表情・からだの動きも大切な伝え方であること、好まれやすいのはほめ言葉や感じていることを伝える言葉であること。限界:どれも本人が答えた調査やインタビューで、「言葉責めをすると満足が上がる」という因果は確かめられていません。言葉責めの言い方や順番を比べた研究は、今回の検索では見つかりませんでした。おもちゃの会社などが行ったアンケートは、調べ方が公開されていないため使っていません。
始める前に:言葉の「いい・だめ」を決めておく
言葉は、ふれるのと同じくらい、相手の心に直接届きます。同意は、ふれあいと同じく、その都度・一つずつ確かめます(第1章)。服を着ている、落ち着いた時間に、次のことを短く話しておきましょう。
- 言われてうれしい言葉:ほめ言葉、名前の呼び方、呼ばれたいあだ名
- 言われたくない言葉:見下す言葉、体型や体の部位をけなす言葉、「ほかの人と比べる」言葉、元恋人の名前、つらい体験を思い出させる言葉。人によって違うので、思いこまずに聞く
- どこまで強くしてよいか:「やさしい言葉だけ」「少しからかうのはいい」「役になりきるのも試したい」の、どこから始めるか
- 止める合図:次の節を参照
- 終わったあとに話すこと:よかった言葉、もう使わないでほしい言葉を、一つずつ伝え合う
恥ずかしくて口に出しにくい時は、メッセージで「こういう言葉、言われてみたい」と送り合う方法もあります(経験者のあいだでよく語られる工夫)。
止める合図と、途中の確かめ方
役になりきっている時は、「やめて」が演技なのか本心なのか、分かりにくくなることがあります。そのため、ふだんの会話では使わない言葉を、止める合図(セーフワード)として決めておくと安心です。BDSM(主従の役割や強い刺激を含む遊び)の研究をまとめた総説では、合図の言葉は、始める前に決めておき、どんなに盛り上がっていても、それが出たら役をやめて止めることが、同意を保つ大切な道具とされています。「赤=すぐ止める」「黄=弱めて、それ以上進めない」「緑=続けてよい」という信号の色の合図や、声が出しにくい時の手の合図も紹介されています(Dunkley と Brotto, 2020)。
- 合図の言葉:「赤」「ストップ」など、ふたりで決めたもの。合図が出たら、理由を聞かずにすぐ止め、ふだんの声に戻る
- 手の合図:肩や腕を2回たたく、など
- 途中の確かめ方:役のまま「まだ大丈夫?」と小さく聞く、信号の色で「今、何色?」と聞く。表情がくもる、体がこわばる、返事が短くなるのは、立ち止まるサイン
- 言った側も止めてよい:言う側が、言っていて苦しくなった時も、合図で止めてかまいません
進め方:やさしい言葉から、少しずつ
以下は、研究で確かめられた「正しい順番」ではなく、上の研究の傾向(ほめ言葉や感じていることを伝える言葉が好まれやすい)と、経験者のあいだでよく語られる工夫を組み合わせた一例です。1回の時間で全部進む必要はありません。
- ほめる・愛情を伝える:ふれあいの始めに、相手の好きなところを一言。「その声、好き」
- 自分の感じていることを伝える:「それ、気持ちいい」「ドキドキしてる」。相手にとっては、何がよかったかが分かる合図にもなる
- お願いをする:「もう少しゆっくり」「そこ、そのまま」。命令ではなく、うれしさを添えたお願いにすると伝わりやすい
- からかう・焦らす:「まだだめ」「どうしてほしい?」。相手の反応がよければ、少しだけ間をのばす
- 役になりきる:事前に話し合って、ふたりとも「試したい」と言った時だけ。短い時間から
相手の反応がよかった言葉は、その日のうちに何度か使ってかまいません。反応がうすい言葉は、無理に続けず、一つ前の段階に戻ります。
声・間・息・目線
- 声の大きさ:ふだんより小さく、低めに。耳元でささやく程度で十分(経験者のあいだでよく語られる工夫)
- 間:一言のあとに、少し黙る。早口で続けるより、言葉が相手に届く時間ができる
- 息:言葉の前後のため息や、深い呼吸も伝え方の一つ。研究では、言葉より声や息などの言葉以外の伝え方のほうが満足と関係していた(Babin, 2013)
- 目線:言う時に目を見る、または「目を閉じて」とお願いして、声だけに集中してもらう。見つめられるのが苦手な人もいるので、相手に合わせる
- ふれあいと合わせる:言葉だけが先に進まないように、手の動きや呼吸のリズムと合わせる
例の言葉:3つの段階
ここに挙げるのは、あくまで例です。自分の口調に合わせて言いかえ、ふたりで「いい」と決めた範囲で使ってください。
やさしい(初めての人向け)
- 「今日、ずっとこうしたかった」
- 「その顔、すごくきれい」
- 「それ、気持ちいい」
- 「名前、呼んで」
少し大胆(お願い・焦らし)
- 「もう少しゆっくり、して」
- 「目を閉じて。次、どこにふれるか当ててみて」
- 「まだだめ。もう少しだけ、待って」
- 「どうしてほしいか、言葉で教えて」
役になりきる(ふたりで決めた時だけ)
- 「今夜は、言うとおりにしてもらうね」
- 「勝手に動いちゃだめ。いいって言うまで、そのまま」
- 「よくできました。ちゃんと待てたね」
- リードされる側から:「お願い、もう待てない」
役になりきる言葉でも、最後はほめ言葉や「ありがとう」で終えると、ふだんの関係に戻りやすくなります(経験者のあいだでよく語られる工夫)。
恥ずかしい人のための始め方
- 一言から:まずは「好き」「そこ」「うれしい」の一言だけ。文章にしなくてよい
- ささやく:耳元で小さな声なら、言う側も聞く側も照れにくい
- 暗くする・目を閉じる:顔が見えないほうが、言葉にしやすい人もいる
- 先にメッセージで:会う前に、言われてみたい言葉や、言ってみたい言葉を送り合う。会った時は、そのとおりに言うだけでよい
- 笑ってしまってもよい:照れて笑うのは失敗ではありません。ふたりで笑ったあと、もう一度言ってみる
言葉が合わなかった時は
言葉の好みは人によって大きく違い、同じ人でも日によって変わります。相手の表情がくもった、黙ってしまった、という時は、次のようにします。
- すぐ止めて、ふだんの声に戻る:「ごめん、今のいやだった?」と短く聞く
- 言い訳をしない:「冗談だよ」「みんな言ってるよ」とごまかさず、「もう言わないね」と伝える
- 続けるかを相手に任せる:「このまま続ける? 少し休む?」と聞き、相手が選んだほうにする。今日はここまで、でもかまわない
- あとで話す:落ち着いてから、どの言葉がいやだったかを聞き、「言われたくない言葉」に加える。責めずに受け止める
強い言葉(からかい・見下す役)を使う時
相手を見下したり、恥ずかしがらせたりする役を楽しむふたりもいます。ただし、言葉は、からだの傷よりも気づかれにくい形で心に残ることがあります。次の線は、どんな時も守ります。
- はっきり合意した時だけ:ふたりとも「試したい」と言葉で言った時だけ。使ってよい言葉を具体的に決め、決めていない言葉は足さない
- 本当の弱みにふれない:体型・見た目のコンプレックス、仕事や家族、過去のつらい体験は、役の言葉でも使わない
- おどしの言葉は使わない:「言うことを聞かないと〜する」のように、実際の生活や安全をおびやかす言葉は、遊びでも使わない
- 同意のない場面を演じる言葉は、話し合いのない相手に向けない:嫌がる相手に、という筋書きの言葉は、ふたりで十分に話し合い、止める合図を決めた時以外は使わない
- 使わない設定:未成年を思わせる役や年齢の設定、家族・親族どうしの役、実在するほかの人(知り合い、元恋人、芸能人など)を持ちこむ言葉は使わない
- お酒に酔っている時は始めない:判断が鈍り、合図にも気づきにくくなる
- 終わったあとのケア:役をやめて、抱きしめる、水を渡す、「大好きだよ」「ありがとう」と伝える。強い役のあとに気持ちが沈む人もいるので、翌日も声をかける。BDSMの総説でも、同意は始める前・最中・終わったあとを通して保つものとされています(Dunkley と Brotto, 2020)
よくある失敗と直し方
- いきなり強い言葉から始める:ほめ言葉と、感じていることを伝える言葉から。強い言葉は、話し合ったあとに
- 動画のせりふをそのまま使う:作品は見せるために作られた言葉です。ふたりの言葉を、ふたりで選ぶ
- しゃべり続ける:言葉が多すぎると、相手が集中できない。一言と、間を
- 相手の反応を見ていない:表情・呼吸・からだのこわばりを見る。迷ったら「大丈夫?」
- 体や見た目をけなす:役のつもりでも、本気で傷つくことがある。決めていない言葉は使わない
- 合図を無視する・「本気じゃないでしょ」と続ける:合図が出たら、理由を聞かずにすぐ止める。続けることは、同意のない行為になる
- 終わったあと、すぐ離れる:ふだんの声で、よかった言葉を一つ伝え合う(第3章)
ふたりで試すお題 次の時間の前に、「言われてうれしい言葉」と「言われたくない言葉」を、それぞれ3つずつメッセージで送り合いましょう。当日は、相手の「うれしい言葉」から1つだけ、耳元で言ってみてください。止める合図も一つ決めておきましょう。終わったあとに、いちばんよかった言葉を一つずつ伝え合ってくださいね。
この章の方法で必ず満足が高まる、という研究の裏付けはありません。言葉で気分が悪くなった、つらい記憶がよみがえった、という時は、すぐに止めて休んでください。相手が嫌がる言葉をくり返す、合図を無視する、おどす、といったことは、言葉による暴力です。困った時は、配偶者暴力相談支援センターや性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(全国共通番号 📞 #8891)に相談できます。
ふれ方の手順は実践編(第7章)に、口でのふれあいは第11章と第12章にまとめています。言葉の合図は、どの章のふれあいとも組み合わせられます。
参考にした資料
- Jonason PK, Betteridge GL, Kneebone II(2016)An Examination of the Nature of Erotic Talk. Archives of Sexual Behavior 45(1)
- Jonason PK, Tobaldo F, Zannoni R, Seiffert K(2025)Feeling Love and Lust: An Examination of Individualistic and Mutualistic Erotic Talk. Archives of Sexual Behavior 54
- Mallory AB(2022)Dimensions of couples' sexual communication, relationship satisfaction, and sexual satisfaction: A meta-analysis. Journal of Family Psychology 36(3)
- Mallory AB, Stanton AM, Handy AB(2019)Couples' Sexual Communication and Dimensions of Sexual Function: A Meta-Analysis. Journal of Sex Research 56(7)
- Babin EA(2013)An examination of predictors of nonverbal and verbal communication of pleasure during sex and sexual satisfaction. Journal of Social and Personal Relationships 30(3)
- Millman RD ら:Communicating in the Bedroom: How Verbal and Nonverbal Expression Relate to Sexual Quality(サイモンフレーザー大学の研究室の学会発表要旨)
- Blunt-Vinti HD, Jozkowski KN, Hunt ME(2019)Show or Tell? Does Verbal and/or Nonverbal Sexual Communication Matter for Sexual Satisfaction? Journal of Sex & Marital Therapy(PubMed 30040593)
- Séguin LJ(2024)"I've Learned to Convert My Sensations into Sounds": Understanding During-Sex Sexual Communication. Journal of Sex Research 61(2)
- Dunkley CR, Brotto LA(2020)The Role of Consent in the Context of BDSM. Sexual Abuse 32(6)