トコロテン ― 前立腺への刺激だけで達するということ
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「トコロテン」は、肛門での性行為のあいだに、受け入れる側が陰茎(ペニス)に手でふれずに射精することを指す呼び方です。英語では「ハンズフリー」などと呼ばれます。この章では、前立腺と射精のしくみ、研究で分かっていることと分かっていないこと、ふたりで試す時の考え方、ひとりでの練習、安全の目安を、研究と経験者の話を分けてまとめます。
はじめにお伝えしたいのは、「できる人もいれば、できない人もいる」ということです。できなくても、からだに問題があるわけではありません。肛門での性行為の準備・衛生・痛みを防ぐ基本は、第2章・第3章・第7章と、姉妹サイトのアナルのしくみと始め方にまとめているので、ここでは繰り返しません。
しくみ①:前立腺の場所
前立腺は、ぼうこうのすぐ下で、尿道の根元を取り囲んでいる男性の器官です。後ろ側(背中側)は直腸と接していて、うすい膜をはさんで向かい合っています(Singh と Bolla, StatPearls)。大きさはクルミくらいです(Levin, 2018)。そのため、肛門から入った指や陰茎、道具は、直腸のおなか側の壁ごしに前立腺のあたりを押すことになります。前立腺の中には、精子を運ぶ管(射精管)が通り、尿道に合流しています(Singh と Bolla, StatPearls)。
肛門から入れるふれあいで、どこが心地よいかを聞いた研究では、男女とも「入り口に近い浅い所の、おなか側」がもっとも多く選ばれました。男性ではここが前立腺の真上にあたります(Zaliznyak ら, 2025)。ただ、研究者は、肛門まわりの神経(陰部神経)が心地よさに関わっている可能性も挙げていて、前立腺だけが理由かどうかは分かっていません。
しくみ②:射精と、絶頂は別のもの
射精は、2つの段階で進みます(Levin, 2018)。
- 集まる段階:精巣・精のう・前立腺などから出た液が、尿道の奥(前立腺のあたり)に集まる。この時、「もう止められない」という感覚が生まれる
- 押し出す段階:陰茎の根元の筋肉(球海綿体筋など)がリズミカルに縮み、精液を勢いよく外へ押し出す
絶頂(オーガズム)と射精はふつう同時に起こりますが、からだの中では別々のしくみだと、研究者は説明しています(Levin, 2018)。前立腺への刺激による絶頂について、古い論文では「精液がにじみ出るように出る、反射のような絶頂」と書かれたものもあります。勢いよく出る時もあれば、にじむように出る時、ほとんど出ない時もある、ということです。
- 出ない絶頂(ドライオーガズム):絶頂しても精液が出ない、またはごく少ないこと。短い時間に何度も達した後に起こることがあり、多くは数時間休めば戻る。一方で、前立腺の手術、糖尿病、一部の薬(血圧・前立腺・気分の薬)などが原因のこともある(Mayo Clinic; ISSM)
- 逆向きの射精(逆行性射精):精液が外に出ず、ぼうこうへ流れること。終わった後の尿が白くにごるのが目印。痛みはないが、子どもを望む時は相談が必要(Cleveland Clinic)
前立腺への刺激で精液が出ない時、それがぼうこうへ流れているのかどうかを調べた研究は、まだありません。
研究で分かっていること
- 肛門からの刺激だけで達した経験:アメリカの男性466人・女性498人のネット調査で、肛門に受け入れたことがある人のうち、それだけで絶頂したことがある男性は39%、女性は19%でした。男性の47%は、ほかの場所への刺激を一緒にした時に達していて、16%は肛門からの刺激では一度も達したことがありませんでした(Zaliznyak ら, 2025)。「絶頂」を聞いた調査で、射精があったかどうかは分けて聞いていません
- 心地よさの場所は人それぞれ:前立腺のある30人に話を聞いた研究では、心地よさを感じる場所は直腸のおなか側の壁と、肛門の中の大きく2つに分かれ、「前立腺がすべての人の心地よさの中心ではない」と結論づけています(Gaither ら, 2023a)
- 経験とともに変わる:前立腺のある975人のネット調査では、肛門で受け入れた回数が10回未満の人で心地よさを感じたのは41%、500回を超える人では92%でした。強い痛みは39%から13%に減っていました(Gaither ら, 2023b)。ただし、同じ人を追いかけた研究ではないので、「回数を重ねれば必ず変わる」とまでは言えません
- 医療でのマッサージ:脊髄を損傷した男性69人に、医師が指で前立腺などをマッサージしたところ、73.9%で前立腺の液が出ました。絶頂に似た筋肉の収縮があったのは4人でした(Arafa ら, 2007)。前立腺を押すと液が押し出されることはありますが、それは心地よさをともなう絶頂とは別のことです
研究で分かっていないこと:前立腺への刺激だけで射精できる人の割合、できるようになるまでの期間、上手なやり方。前立腺による絶頂は、研究室で調べた研究がなく、情報の多くは本人の体験談だと、研究者自身が書いています(Levin, 2018)。この章の手順や工夫も、効果が確かめられたものではありません。
ふたりで試す時の考え方
肛門での性行為の流れと姿勢の選び方は、第7章にまとめています。ここでは、トコロテンを目指す時に、とくに意識するとよいことを挙げます。数字は始める時の目安です。
- ペースは受け入れる側が決める:深さ・速さ・角度・やめる時を、受け入れる側が決める。入れる側は合図に合わせる
- 深さより、おなか側:心地よいと答えた人が多いのは、入り口に近い浅い所のおなか側でした(Zaliznyak ら, 2025)。深く強く動くより、浅めで、おなか側の壁に当たる角度を探す
- 動きは小さく、一定に:大きく速い出し入れより、ゆっくりした小さな動きを数分続ける。合う動きが見つかったら、そのまま変えずに続けてもらう
- 陰茎にふれない時間をつくる:はじめから「さわらない」と決めなくてよい。手でふれて高まったあと、手を止めて肛門からの刺激だけの時間をつくり、どう感じるかを確かめる。調査でも、ほかの刺激と一緒に達する人が多くいました(Zaliznyak ら, 2025)
- 力を抜く・息を吐く:力が入ると、入り口が締まって痛みにつながる。ゆっくり息を吐く
- 言葉で伝える:「今の角度がいい」「そのまま」「少し浅く」など、短い言葉で。痛みは0〜10の数字で伝え合い、鋭い痛みがあればすぐ止める
- ゴールにしない:「今日こそ」と意気込むと、力が入りやすい。達しなくても、その時間が心地よければ十分です
姿勢は、受け入れる側が上になる形(深さと角度を自分で調整できる)や、あお向けでひざを胸に寄せ、腰の下に枕を入れる形が、角度を変えやすいと言われます(第7章)。どの姿勢が合うかは、経験者のあいだでも意見が分かれます。
入れる側も、コンドームをつけ、ローションをたっぷり使います。HIVや梅毒などの予防と検査は第4章を参照してください。射精した精液がつくこともあるので、タオルを敷いておきましょう。
ひとりで練習する場合
ふたりで試す前に、自分の感じ方を知っておく人もいます。ひとりでの始め方は、姉妹サイトのアナルのしくみと始め方に手順があります。
- 指で:爪を短くし、ローションをたっぷりつける。入り口から第2関節あたりで、指の腹をおなか側へ向け、軽く押して離す・小さく円をえがく程度に
- 前立腺用の道具で:肛門用に作られ、根元に広がったストッパーがあり、前立腺に当たりやすいように曲がった形のものがある。研究者が紹介した例では、手を使わず、肛門の筋肉を締めたりゆるめたりする動きで道具がわずかに動き、刺激になるとされています(Levin, 2018)。シリコーン製なら、シリコーン系ではなく水性のローションを使う(シリコーン系は道具を傷めるため)
- 時間:体験談では「30分以上かかる」「リラックスと時間と練習が必要」という声が多いと紹介されています(Levin, 2018)。疲れたら休む
研究者が紹介した63歳の男性の例では、道具での強い絶頂に時間を使いすぎるようになり、やめるのに苦労したことも書かれています(Levin, 2018)。1人だけの報告ですが、生活や睡眠の時間を削るようになったら、使う時間や回数を決めましょう。
経験者のあいだでよく語られる工夫
ここからは研究ではなく、日本語と英語の体験記事や掲示板で、複数の書き手が共通して挙げていた工夫です。合うかどうかは人によります。
- はじめは「何も感じない」がふつう:心地よさや、達する感覚が出てくるまでに、何か月もかかったという話が多い
- 先にひとりで知っておく:自分の指や道具で、心地よい場所と角度を知ってから、相手に伝えると合わせやすい
- 尿意のような感じを怖がらない:前立腺のあたりを押すと、尿が出そうな感じがすることがある。事前にトイレを済ませておくと安心できる
- 焦らない:「出さなきゃ」と思うほど力が入って遠のく、という声が多い
- 受け入れる側がリードする:上になる、手で相手の腰の動きを導く、など、受け入れる側が調整できる形のほうが合わせやすい
体験記事の中には、強く長く押し続ける、大きすぎる道具を使う、痛みを感じにくくする麻酔成分入りのローションを使う、といった方法もあります。傷や出血のもとになるので避けましょう(第7章)。
やめる目安と、受診の目安
- 前立腺に炎症がありそうな時はしない:熱、排尿の痛み、頻尿、下腹部や会陰(陰のうと肛門のあいだ)の痛みがある時は、急性の前立腺炎のおそれがある。急性の前立腺炎では、前立腺のマッサージは痛みが強く、細菌が血液に入るおそれがあるため、医療でも行わないとされています(Pendegast ら, StatPearls)。まず泌尿器科へ
- 治療にはならない:慢性の前立腺炎に対する前立腺マッサージは、研究の結果が分かれていて、いまは勧められていません(Pendegast ら, StatPearls)。症状がある人は、自分でマッサージせず泌尿器科へ
- 泌尿器科で相談したい時:精液に血が混じるのが続く、射精の時に痛い、精液がまったく出ない状態が続く、終わった後の尿が白くにごる、子どもを望んでいて精液が出にくい時
- すぐやめる時:鋭い痛み、出血、めまい。出血が続く、強い痛みが治まらない、道具が取れない時は、すぐ救急や肛門科へ(アナルのしくみと始め方)
ふたりで試すお題 次の時間に、受け入れる側が「角度」と「深さ」を言葉で伝える練習をしてみましょう。「今のがいい」「少し浅く」の2つだけで十分です。達したかどうかではなく、「心地よかった角度」を終わったあとに1つずつ話してみてください。
前立腺への刺激で必ず達する、ほかの絶頂より強い、といった研究の裏付けはありません。痔や切れ痔がある時、熱や排尿の痛みがある時、前立腺やおしりの手術の後、血をさらさらにする薬を飲んでいる時は行わず、先に医師に相談してください。
参考にした資料
- Levin RJ・2018・Prostate-induced orgasms: A concise review illustrated with a highly relevant case study・Clinical Anatomy 31(1)
- Singh O, Bolla SR・2023・Anatomy, Abdomen and Pelvis, Prostate・StatPearls
- Zaliznyak M ら・2025・Anal sex practices and rectal erogenous zone maps among men and women of diverse sexual orientations・Sexual Medicine 13(3)
- Gaither TW ら・2023a・Atlas of the receptive anal sex experience among people with prostates・Journal of Sexual Medicine 20(2)
- Gaither TW ら・2023b・Relationship between pelvic sensations and lifetime exposure to receptive anal intercourse among people with prostates・Journal of Sexual Medicine 20(9)(抄録)
- Arafa MM ら・2007・Prostatic massage: a simple method of semen retrieval in men with spinal cord injury・International Journal of Andrology 30(3)
- Mayo Clinic・Dry orgasm: Causes
- 国際性医学会(ISSM)・What is a dry orgasm?
- Cleveland Clinic・Retrograde Ejaculation
- Pendegast HJ, Leslie SW, Rosario DJ・2024・Chronic Prostatitis and Chronic Pelvic Pain Syndrome in Men・StatPearls